地域医療再生計画には、大学病院など基幹病院との連携強化や、救急医療センターの拡充など、医師不足をはじめとする地域医療の課題を解決する案を盛り込むことになっている。



 地域医療再生計画には、大学病院など基幹病院との連携強化や、救急医療センターの拡充など、医師不足をはじめとする地域医療の課題を解決する案を盛り込むことになっている。「何でもいいからアイデアを出さないと、病院に金が来ない」と焦りを口にする。 


<選択 09衆院選>政府の医師不足解消支援*駆け込み政策 現場困惑*計画提出期限は10月*立案難しい小規模市町村 
2009.07.16 北海道新聞      

 浦河赤十字病院の診察室に大きなおなかを抱えた女性が次々と訪れる。妊婦と向き合うたびに、花谷馨(かおる)医師(57)は「遠距離移動の途中で、子供が生まれてしまう恐れがある。このお産拠点はなくせない」との思いを強くする。 

 医師不足が影響し、人口約7万7千人の日高管内でお産ができる場所は今、浦河赤十字病院しかない。しかし、この病院でさえ、常勤の産婦人科医は不在で、3医療機関が交代で花谷医師ら出張医を派遣、診療体制を維持しているのが現状だ。 

 リスクの高い出産が予想される場合に対応できるのは、最も近くて120キロ離れた苫小牧市内の病院になる。 

 日高の例を見るまでもなく、道内では特に産婦人科医の減少が著しい。1996年に439人いた産婦人科医は、10年間で2割減った。医師の集約化もあり、2005~08年末までに18の医療機関が分娩(ぶんべん)休止に追い込まれた。 

 崩壊しつつある地域医療に対し、政治は明確な「処方せん」を提示できないでいる。 

 麻生太郎首相は5月、追加経済対策の一環として総額3100億円を充てた「地域医療再生交付金事業」を打ち出した。これに関連して、舛添要一厚労相は衆院予算委で「医療のコスト面ばかりが強調されてきたが、間違っていたところは変えた」と述べ、医療費抑制を推し進めた小泉純一郎政権との決別をにじませた。 

 この事業は、比較的高度な医療を提供する広域医療圏(2次医療圏)ごとに、都道府県が5カ年の「医療再生計画」を策定。国は全国348の2次医療圏のうち、100億円規模で10カ所、30億円規模で70カ所の交付圏域を選定する方針だ。 

 計画には、大学病院など基幹病院との連携強化や、救急医療センターの拡充など、医師不足をはじめとする地域医療の課題を解決する案を盛り込むことになっている。 

 しかし、実際に計画が採用されるのは、医療圏のうち、わずか2割。各医療圏の計画案の中身を吟味して交付先が決まるが、道内21の医療圏にとっては、厳しい競争だ。 

 その上、国が示した計画案の提出期限は、10月中旬。医療再生と景気対策の二兎(にと)を追う政策として、補正予算に急きょ盛り込まれたからだ。 

 交付枠獲得に向け、道は7月1日、市町村や病院に1カ月で素案をまとめるよう求めたが、人手が足りない小規模市町村ほど不利になる。「1カ月で医師確保策が見つかるなら、とっくにやっている」と道央の市立病院担当者。小児科医の不在が続く道北の自治体病院も 
 交付対象には施設整備も認められる見通しだ。このため、道幹部は、各医療圏がまとめる計画案について、「手っ取り早く計画を作れるハード面の整備が中心になる」と予測しつつ、「設備が立派になっても、医師不足は続くという結果が怖い」と本音を漏らす。 

 民主党の前原誠司副代表は衆院予算委で「医師不足と地域偏在は国がやるべき問題で、地方に丸投げしていいのか」と批判した。しかし、その民主党に対しても、「財源が不明確で、政権交代したら医療現場がどうなるのかは見えない」(道央の病院幹部)との不安も根強い。 

 危機的な医師不足をどう打開するか、という明確なビジョンが示されない中で行われる衆院選。「医療再生は、そこに暮らす人の命にかかわる問題ではないですか」。わずかな診察の合間に、花谷医師はそう問いかけた。(報道本部 平畑功一) 

◇2次医療圏◇ 

 比較的高度で専門性の高い医療を提供し、おおむね入院を伴う医療の完結を目指す地域の単位。都道府県が設定している。道は、広大な面積がある道内を、南檜山や上川北部など全国最多の21圏域に分けている。これに対し、市町村単位の1次医療圏は初期医療を担い、道内を六つに分けた3次医療圏は高度で専門的な医療を提供する。