厚生官僚が「倒産の危機」に追い込む 瀕死の「国立がんセンター」



国立がんセンターが末期がんに侵されている 

国立がんセンターが2010年4月独法化すれば、財団法人がん研究振興財団の業務は全てセンターに移管が可能となる。 
そうすれば、財団への天下りに払う無駄な人件費はカットでき、浮いた分をレジデントの待遇改善に振り向けることができるはずだ。 

しかし、厚労省はセンター独法化後も財団を維持する意思を捨ててない。様々な事業を財団に押し込むことで見た目の仕事量を増やし、存続の理由づけに余念がない。天下りバッシングなど、役人にはどこ吹く風というわけだ。現場の医師のトップである、土屋了介病院長は嘆く。「日本を代表するがんの臨床現場であり、専門家がそろったこのセンターで、いま必要とされているのは、現場の自主独立だ。官僚管理を脱しない限り、世界と伍してやっていけるはずがない」 

  

厚生官僚が「倒産の危機」に追い込む 
瀕死の「国立がんセンター」                ・・・・・2009.7 選択より抜粋 

「日本の台所」東京・築地市場を睥睨(へいげい)するかのごとくそびえ立つ「国立がんセンター」は、誰しも認める、わが国のがん医療の総本山だ。 
1962年に創立されて以降、胃カメラ、消化管二重造影法、気管支鏡の開発などで、センターは世界的な業績を挙げてきた。わが国のがん治療の歴史は、国立がんセンターの歴史といっても過言ではない。 

 現在、国立がんセンターは築地と千葉県柏市の2つの施設をもつ。年間の入院患者は2万人以上に達し、患者は遠く海外からもやってくる。そのセンターが今、所管省庁である厚生労働省による傍若無人な振る舞いにより、「倒産」の危機に瀕している。 

「ずぶの素人」が君臨 

発端は昨年末、「高度専門医療に関する研究等を行う独立行政法人に関する法律」が制定され、全国に6つある国立高度専門医療センターが独立行政法人化されることが決定したことによる。この結果、2010年4月に国立がんセンターは、国立病院の枠を外れ、独立した経営体となる。 

 センターの独法化については、かねてより様々な問題が指摘されてきた。特に600億円もの借金を引き継ぐことに、多くの関係者は懸念を示した。この借金は、国の特別会計からの借り入れで金利は4~5%と高く、返済期間は25年にも及ぶ。これは、たとえ世間の金利が下がっても、借り換えできないことになっている。年間の診療報酬収入が250億円程度なのに、借金の利息だけで30億円を返すのは至難であろう。 

 そもそも、この借金はいわくつきだ。その大部分は1997年の病院建て普えの際に生じたものだが、センターの設備費用は世間の相場と比べ、異常なほど割高だ。通常、病院の建設コストは一床あたり3千万円。ところがセンターでは7~8千万円もかかっている。国民は高い買い物をさせられたわけだが、その際の業者選定は、すべて厚労省から出向している役人が取り仕切った。つまり、厚労省の思惑で作られた借金というわけだ。 

 周知の通り、センター運営の実権を握っているのは、最高責任者の総長や病院長ではなく、厚労省から出向している役人たちだ。特に指定席である運営局長(普通の病院の事務長に相当する)は、序列的にも総長に次ぐポジションとされ、病院長より格上に置かれている。驚くべきことに、総長をはじめセンター幹部の人事権は厚労省に握られているため、センター職員は運営局長にひれ伏すしかない。逆に運営局長は本省の威光をたよりに絶大な権限をふるい、病院運営からがん研究の方向性まで、あらゆることに□を出す。言うまでもなく、役人は「ずぶの素人」なのだが、そんな彼らが日本のがん医療の未来を決めるというのだから、たまったものではない。 

 センターの長期債務問題は、国会にも波及した。今年2月、民主党の仙谷由人議員が、衆議院予算委員会でこの問題を取り上げたのだ。仙谷議員は、かつてセンターで胃がんの手術を受けた患者の一人だ。 

 仙谷議員が厚労省から人手した資料を独自に分析したところ、独法化開始時点の貸借対照表の固定資産が取得原価のままで、一切の減価償却が行われていないことが判明した。また厚労省作成の予定キャッシュフロー計算書には、更新投資のための支出が73億円分も過小計上されていることが発覚し、関係者に大きな衝撃を与えた。こんなとんでもない財務状況に置かれたままセンターが独法化したら、「倒産」の危機に瀕することは間違いない。厚労省の担当者が描いた返済計画は、机上の空論に基づいて作成された官僚の作文に過ぎず、センターを窮地に陥れる会計処理は、国民に対する犯罪といっても過言ではない。 

 仙谷議員の予算委での質問は、厚労省の痛いところを突いたようで、舛添要一厚労相は国会答弁の中で、センターの資産評価のやり直しを明言せざるを得なくなった。しかしながら、その答弁から今日に至るまで、官僚たちはセンターの資産見直しを着手せぬまま放置している。政治の混乱をいいことにサボタージュを続けているのだ。 

 そもそも、なぜ厚労官僚たちは、嘘をついてまでセンターに借金をおしつけたかったのだろうか。それは、センターが借金を抱えていた方が、独法化後に役人が天下りしやすいからである。厚労官僚にとっては、センターが倒産しない程度の慢性赤字を抱え、補助金(運営交付金)に依存してくる方が都合がいい。厚労省から補助金を取るためには、センター関係者は役人に頭を下げなければならない。「民間でいう銀行管理と同じ。センターは『官僚管理』に置かれるのです」と幹部職員は言う。国立がんセンターにとって厚労官僚は、膨大な借金を作っただけでなく、天下り先として彼らの老後の面倒までみなければならない厄介な存在なのだ。 



手取り月20万円の「日雇い医師」 

 センターを巡る問題は、借金だけにとどまらない。例えば医療現場における問題。国立がんセンター中央病院では年間4,000件の外科手術をこなし、総額250億円を超える額の多種多様な手術器具が設置されている。これを管理するのはメディカルエンジニアという職種の役割なのだが、それが今年の3月まで、たった1人しかいなかった。通常の病院なら5人は必要な規模だ。こんな手薄な状態では、安全な手術などとてもおぼつかない。この4月にも国立がんセンターでは骨髄液採取手術で医療ミスがあったばかりで、危機管理体制の甘さは指摘され続けている。しかし厚労省は、箱物には法外な予算をつけるのに、医療の安全向上のための人員確保や人材育成は長年放置したままだ。 

 医療だけでなく、病院事務で看過できない事態が起きている。昨年10月、センターの会計窓口で3,040万円にものぼる診療収入を、係員が横領していたことが発覚した。この件について会計検査院は「著しく不適切」と評し、刑事告発の可能性を示した。これに対して、責任者である運営局長(厚労省の医系技官)は「毎日誤差が生じていて、積もり積もってそうなった」などと詭弁を弄(ろう)しているという。本省からの出向組に浄化作用を期待するのも無理な話で、司法の介入を待つよりほかにない。 

 現場の医療スタッフの処遇を巡る問題も深刻な状況にある。センターの中でも、とりわけ「レジデント」と呼ばれる医師らの勤務状況は、悲惨の一語に尽きる。レジデントとは、病院内部に6畳ほどの部屋を割り当てられ、住み込みて働く下積みの医師たちのことだ。 

 センターのレジデントになるためには、初期臨床研修を修了していなければならないので、平均年齢は30歳を超えているが、センターでは最底辺のスタッフとして働かねばならない。休日でも夜中でも、患者の容体が急変すれば、24時間いつでも呼び出される。 

 彼らは住み込みで働いているのに、契約上は週30時間の日雇い労働者という、極めて不当で不安定な立場に置かれている。手取りは月20万円程度で、ボーナスすら支給されない。薄給の理由は、もし運営局がレジデントたちの30時間以上労働を認めてしまうと、厚労省の労働サイドから常勤待遇にするように指導されるからだという。それだと人件費が跳ね上がってしまうので、レジデントたちに「滅私奉公」を強いている、というのだ。厚労官僚は、センターで最先端のがん医療を学びたいというレジデントたちの熱意を知るがゆえに、そこにつけ込み、彼らの善意の上で不当なコストカットに励んでいるのだ。土屋了介病院長は、原因についてこう語った。「レジデントの待遇を改善したくても予算がないし、厚労省は予算請求もしてくれない。財務省に行って掛け合ってくるだけの力も意気地もないからだ」 



研究費で天下りポストを買う 

 さらに、センターの病巣は、国民からもっとも期待されているがん撲滅のための研究にまで及んでいる。がん対策には多額の税金がつぎ込まれており、08年度だけでもがん関連予算は236億円、うち86億円は研究費に充てられている。他分野と比較して、圧倒的に恵まれているがん対策予算はしかし、国民のがん撲滅への期待に反し、厚労官僚や御用学者たちによって、いいように無駄遣いされているのだ。 

 長年にわたり、「厚生労働科学研究費」の公募では、官僚が審査委員の人事権を持ち、最終決定権を持つ審査委員会を仕切ってきた。この結果、官僚に従順な研究者ばかりが手厚く研究費をつけてもらえるようになり、厚労官僚の愚策を擁護する御用学者の一団が形成されるに至ったのだ。例えば、08年度の「第3次対がん総合戦略研究事業」で採択された51課題中、23課題を国立がんセンターの幹部たちが占めている。彼らは、この研究費を使って海外や国内視察に通うわけだ。この研究事業、一応は公募の形をとっているが、まともに選考されているとは考えにくい。「審査は出来レースなので、厚労省に知り合いがいなければ応募しても無駄だ」と言い切る医学部教授もいる。 

 厚労科研費の不透明な運営については枚挙にいとまがなく、まともな研究者たちは、研究審査を厚労省から切り離し、専門家による自律的な運営に委ねるように求めた。この結果06年度からは、厚労省とは別のファンディングエージェンシーが研究費の分配にあたることになった。しかし実質は厚労官僚によって、見事に骨抜きにされてしまったのだ。例えば、がん研究では、国立がんセンターそのものをファンディングエージェンシーと称し、結果としてそこに出向している役人が分配の決定権を握れるようにした。これにより、国立がんセンター運営局には86億円もの研究費を差配する権限が転がり込み、各地の大学医学部にいる研究者たちは運営局に媚びへつらわざるを得なくなった。 

 この権限を手にしかことで、厚労官僚は研究費を餌にして、将来の大学教授のポストを用意させ、自らが天下れるようにしたのだ。言うまでもなく、国立がんセンター運営局に出向している厚労省の役人は、がん治療に従事したこともなければ、研究したこともない素人だ。そんな彼らが研究費の分配の実権を握るようでは、わが国のがん研究の将来は暗い。 



医系技官こそ「最悪のがん細胞」 

 センターは、運営局以外にも役人の食い物にされている。それは、財団法人がん研究振興財団だ。同財団は1968年にわが国のがん医療の進歩を目指して設立されたもので、現在、センターの敷地内に置かれている。年間6億円程度、厚労省から請け負った研究費を分配している。 

 実は、このがん研究振興財団も、天下りの巣窟と化している。09年5月の時点で、理事長は厚労省元事務次官の幸田正孝氏、常勤理事は元医系技官、元事務局長はノンキャリ官僚である。同財団の財務諸表によると、常勤と非常勤の職員合わせて8人の人件費支出は6,400万円とされているから、元官僚を養うには十分すぎる額だ。残りの25人の理事は全て非常勤で、トヨタ自動車最高顧問、日本医師会会長など「充て職」だから、典型的な御用財団といえる。 

 国立がんセンターが独法化すれば、財団の業務は全てセンターに移管が可能となる。そうすれば、財団への天下りに払う無駄な人件費はカットでき、浮いた分をレジデントの待遇改善に振り向けることができるはずだ。しかし、厚労省はセンター独法化後も財団を維持する意思を捨ててない。様々な事業を財団に押し込むことで見た目の仕事量を増やし、存続の理由づけに余念がない。天下りバッシングなど、役人にはどこ吹く風というわけだ。現場の医師のトップである、前出の土屋病院長は嘆く。「日本を代表するがんの臨床現場であり、専門家がそろったこのセンターで、いま必要とされているのは、現場の自主独立だ。官僚管理を脱しない限り、世界と伍してやっていけるはずがない」 

 わが国のがん患者数は140万人を超え、毎年34万人ほどががんによって命を落としている。そうした中で、この国の医療崩壊はとめどなく、がん患者の多くが、まっとうな医療を受けられないまま、「がん難民」となって彷徨うことを余儀なくされている。もっとも罪深いのは、がん医療の総本山たる国立がんセンターを食い物にした厚労省だ。机上の空論に没頭し、自らの利権とポジションを追い求める厚労官僚には、もはや国民の健康を守る役割など期待できるはずもない。 

 いまやこの国のがん医療こそが、役人という、最もタチの悪いがん細胞におかされてしまったのだ 

「日本の台所」東京・築地市場を睥睨(へいげい)するかのごとくそびえ立つ「国立がんセンター」は、誰しも認める、わが国のがん医療の総本山だ。 

 1962年に創立されて以降、胃カメラ、消化管二重造影法、気管支鏡の開発などで、センターは世界的な業績を挙げてきた。わが国のがん治療の歴史は、国立がんセンターの歴史といっても過言ではない。 

 現在、国立がんセンターは築地と千葉県柏市の2つの施設をもつ。年間の入院患者は2万人以上に達し、患者は遠く海外からもやってくる。そのセンターが今、所管省庁である厚生労働省による傍若無人な振る舞いにより、「倒産」の危機に瀕している。 



「ずぶの素人」が君臨 

 発端は昨年末、「高度専門医療に関する研究等を行う独立行政法人に関する法律」が制定され、全国に6つある国立高度専門医療センターが独立行政法人化されることが決定したことによる。この結果、2010年4月に国立がんセンターは、国立病院の枠を外れ、独立した経営体となる。 

 センターの独法化については、かねてより様々な問題が指摘されてきた。特に600億円もの借金を引き継ぐことに、多くの関係者は懸念を示した。この借金は、国の特別会計からの借り入れで金利は4~5%と高く、返済期間は25年にも及ぶ。これは、たとえ世間の金利が下がっても、借り換えできないことになっている。年間の診療報酬収入が250億円程度なのに、借金の利息だけで30億円を返すのは至難であろう。 

 そもそも、この借金はいわくつきだ。その大部分は1997年の病院建て普えの際に生じたものだが、センターの設備費用は世間の相場と比べ、異常なほど割高だ。通常、病院の建設コストは一床あたり3千万円。ところがセンターでは7~8千万円もかかっている。国民は高い買い物をさせられたわけだが、その際の業者選定は、すべて厚労省から出向している役人が取り仕切った。つまり、厚労省の思惑で作られた借金というわけだ。 

 周知の通り、センター運営の実権を握っているのは、最高責任者の総長や病院長ではなく、厚労省から出向している役人たちだ。特に指定席である運営局長(普通の病院の事務長に相当する)は、序列的にも総長に次ぐポジションとされ、病院長より格上に置かれている。驚くべきことに、総長をはじめセンター幹部の人事権は厚労省に握られているため、センター職員は運営局長にひれ伏すしかない。逆に運営局長は本省の威光をたよりに絶大な権限をふるい、病院運営からがん研究の方向性まで、あらゆることに□を出す。言うまでもなく、役人は「ずぶの素人」なのだが、そんな彼らが日本のがん医療の未来を決めるというのだから、たまったものではない。 

 センターの長期債務問題は、国会にも波及した。今年2月、民主党の仙谷由人議員が、衆議院予算委員会でこの問題を取り上げたのだ。仙谷議員は、かつてセンターで胃がんの手術を受けた患者の一人だ。 

 仙谷議員が厚労省から人手した資料を独自に分析したところ、独法化開始時点の貸借対照表の固定資産が取得原価のままで、一切の減価償却が行われていないことが判明した。また厚労省作成の予定キャッシュフロー計算書には、更新投資のための支出が73億円分も過小計上されていることが発覚し、関係者に大きな衝撃を与えた。こんなとんでもない財務状況に置かれたままセンターが独法化したら、「倒産」の危機に瀕することは間違いない。厚労省の担当者が描いた返済計画は、机上の空論に基づいて作成された官僚の作文に過ぎず、センターを窮地に陥れる会計処理は、国民に対する犯罪といっても過言ではない。 

 仙谷議員の予算委での質問は、厚労省の痛いところを突いたようで、舛添要一厚労相は国会答弁の中で、センターの資産評価のやり直しを明言せざるを得なくなった。しかしながら、その答弁から今日に至るまで、官僚たちはセンターの資産見直しを着手せぬまま放置している。政治の混乱をいいことにサボタージュを続けているのだ。 

 そもそも、なぜ厚労官僚たちは、嘘をついてまでセンターに借金をおしつけたかったのだろうか。それは、センターが借金を抱えていた方が、独法化後に役人が天下りしやすいからである。厚労官僚にとっては、センターが倒産しない程度の慢性赤字を抱え、補助金(運営交付金)に依存してくる方が都合がいい。厚労省から補助金を取るためには、センター関係者は役人に頭を下げなければならない。「民間でいう銀行管理と同じ。センターは『官僚管理』に置かれるのです」と幹部職員は言う。国立がんセンターにとって厚労官僚は、膨大な借金を作っただけでなく、天下り先として彼らの老後の面倒までみなければならない厄介な存在なのだ。