民主党の政策調査会副会長も務める鈴木氏に、医学研究の現状や民主党の今後の医療政策の方針について聞いた・・聞き手・橋本佳子 (編集長)

"医療崩壊"を食い止めるためには、「ヒト」「カネ」が必要。民主党では、来春の改定で、地域の基幹病院の診療報酬単価を1.2倍にするほか、医学部定員を1.5倍にするなどの対策を盛り込んだ、マニフェストを作成する予定だという"医療崩壊"の危機は医学研究にも及ぶ- 民主党・鈴木寛氏に聞く国立大学への"トリプルパンチ"が主因、解決策は「今後の政権次第」 2009年6月25日 聞き手・橋本佳子(編集長)

 
 「臨床医学の論文数は世界全体では7%増にもかかわらず、日本に限っては10%低下」。そんなショッキングなデータを基に、6月18日の参議院の文教科学委員会で医学研究の危機を訴えたのは、民主党議員の鈴木寛氏。医師不足、医療費抑制政策などのしわ寄せは、医療提供体制だけでなく、医学研究にも及んでいる。
 こうした"医療崩壊"を食い止めるためには、「ヒト」「カネ」が必要。民主党では、来春の改定で、地域の基幹病院の診療報酬単価を1.2倍にするほか、医学部定員を1.5倍にするなどの対策を盛り込んだ、マニフェストを作成する予定だという。民主党の政策調査会副会長も務める鈴木氏に、医学研究の現状や民主党の今後の医療政策の方針について聞いた(2009年6月24日にインタビュー)。

「このままでは日本の医学研究はさらに立ち遅れる」との危機感を示す鈴木寛氏。

 ――まず医学研究をめぐる現状認識をお聞かせください。

2003年から2006年にかけて、臨床医学の論文数は、世界全体では7%増加したにもかかわらず、日本では10%も低下しています。これは国立大学協会「国立大学附属病院の経営問題に関する第4次アンケート」の結果で、日本の論文数の約3分の2は、国立大学によるものです。同時期に実施されたアンケートでは、診療時間は増加した一方で、そのしわ寄せで教育、さらには研究の時間が著しく減少しています。

 また、医師免許を持ち、医学部の博士課程に入った人は、2008年では全国で65人しかいません。10年前はその2倍くらいでした。私は法学部ですが、大学を卒業した頃、東大医学部では約2割が基礎研究に進んでいました。しかし、2006年はゼロ、2007年は1人だったと聞いています。

 ――"医療崩壊"は、医学研究にも影響を及ぼしているということですか。

 その通りです。われわれは昨年、議員立法で、研究開発強化法という法律を成立させましたが、その議論の過程で、情報、環境、生命科学の三分野の研究が重要で、中でも生命科学は諸外国に比べて基礎、応用、臨床研究のいずでも脆弱で、振興が必要だという現状認識に至りました。今でも欧米諸国に水を空けられているのに、このままでは日本の医学研究はさらに立ち遅れる懸念があります。

 私が昨年来、医学部定員増の必要性を主張していた背景には、診療現場の多忙さ、過酷な医師の勤務環境に加えて、医学研究の立ち遅れへの危機感があります。18日の参議院の文教科学委員会で、徳永保・文部科学省高等教育局長は、「東大など7大学における医学系大学員の基礎医学分野への医師免許を有する入学者は、1998年度と比較して2008年度では4割減となっている。大変深刻な事態」と答弁しています。

 さらに、国立大学の場合、「トリプルパンチ」がこうした現状に影響しています。

 ――「トリプルパンチ」とは何でしょうか。

 2004年度の法人化以降の国立大学病院運営費交付金の削減、2002年以降の4回にわたる診療報酬(全体)のマイナス改定、行政改革推進法による国立大学人件費の5年間で5%カットです。国立大学病院運営費交付金は、2004年度は全体で584億円でしたが、2009年度には207億円と約3分の1に減らされています。4回のマイナス改定で約1割診療報酬の水準が下がった計算です。さらに、行政改革推進法については、参議院でこの人件費削減部分の条文を削除する法律が可決していますが、衆議院ではたなざらしにされている状態です。

 ――現状を改善するための対策は。

 医学研究については、今国会に日本学術振興会法の一部改正案が提出されました。これは補正予算関連の法律です。単年度の予算とは異なり、基金を作って今後5年にわたり、集中的に研究開発を支援するもので、予算額は最先端の研究支援に2700億円、若手研究者の支援に300億円です。ただ当初、法律の改正趣旨に「現下の厳しい経済情勢に対処するための臨時の措置として」という文言があったのです。研究開発支援は恒常的に行うべきもの。経済振興として経済界にばらまくのは反対で、学術振興に使うべきとして、この文言の削除を条件に民主党は賛成に回りました。今回の補正予算全体には反対していましたが、この改正だけは評価できます。

 ――医学定員や診療報酬の辺りはいかがでしょうか。

 それは今後の政権次第でしょう。民主党では現在、マニフェストを検討している段階ですが、当面、OECD諸国の平均的な人口当たりの医師数にするため、医学部定員は1.5倍までの増員を目指す構想です。2009年度でも7793人から8486人に増員されましたが、追加予算はほとんどなく、現場の努力で増やしたわけです。そうではなく、教員の確保、教育環境の整備などの予算を確保した上で、大学側の受け入れ態勢を勘案して定員増を進めていく必要があります。そのためには医学教育の現場、病院も含まれますが、新たに年1000億円以上投入する必要があるのではないでしょうか。

 国立大学病院運営費交付金についても、従来の水準、つまり全体で約600億円の水準に戻すほか、行政改革推進法の人件費削減条文の改正も目指します。

 ――そのほか、マニフェストにはどんな項目を入れる予定でしょうか。

 医療崩壊"を食い止めるためには、「ヒト」「カネ」が必要。民主党では、来春の改定で、地域の基幹病院の診療報酬単価を1.2倍にするほか、医学部定員を1.5倍にするなどの対策を盛り込んだ、マニフェストを作成する予定だという。さらに、次々回に向けて、中央社会保険医療協議会の構成・運営を抜本的に改革した上で、新しいルールに基づいて改定を行うことを目指しています。中医協以外にも政策決定プロセスを見直す必要があります。

 そのほか、医療提供体制の関連では、現在は産科に限られている無過失補償制度の対象を他の分野にも広げます。実態に見合っていない地域医療計画を抜本的に見直し、自分の生活圏内で必要な医療を受けることができる体制作りを目指します。

 ――どの程度の財源がかかると試算していますか。増税なく、対応は可能なのでしょうか。

 医療提供体制分だけで1.1兆円。そのほか、後期高齢者医療制度などの財源が別途かかる想定です。これらの財源としては、まず税金の無駄遣いを削除して充てることを想定しています。