「保険診療は既に破綻している」~医療構想千葉 亀田信介氏



「保険診療は既に破綻している」~医療構想千葉 亀田信介氏 
ロハス・メディカル 川口恭 (2009年6月24日 12:34) 

13日の医療構想千葉発足記念シンポジウムで亀田信介・亀田総合病院院長が『千葉の医療崩壊 その処方箋は』と題して行った講演のエッセンス。あまり他に聴いたことのない筋立てで、埋もれさせると勿体ないのでご紹介する。(川口恭) 

【亀田】 
 タイトルは処方箋となっているが、実は処方箋はなくて、これからしばらく混乱が続くだろうと思っている。 
大前提が、医療崩壊の根本原因は社会システム全体にあるということ。すべての社会システムが85~90歳の平均寿命に耐えられるようにはなってない。社会システム全体が破綻してきており、その中の一つの分かりやすい部分的現象として医療崩壊を捉えないと、何か策を立てたとしても必ずどこかでスタックする。 

戦後の60年で平均寿命は30年も延びた。人類始まって以来初めての夢のような時代になった。不老長寿の薬を手に入れたようなもので、本来であればうれしいことのはずなんだが、現実は必ずしもそうなっていない。 
加齢と共に医療費が増える。65歳を境に急に増えて、75歳以上だと青壮年の8倍。この他に介護費用もある。医療費の半分以上は人件費だから、要するにお金と人手という資源を大量に必要とする時代になったということだ。 

 これに対して明らかに人手が足りない。 

 こうした事態は予測できたのに、85年をピークに、医療費抑制のために医学部定員を減らしてしまった。この結果、世界一の高齢化率なのに対人口あたりの医師数が先進国でも下から4番目になってしまった。日本より下にいる韓国は、まだ高齢化率は10%台だけれど、既にメディカルスクールをつくって医師の大幅養成増に踏み切っているので、抜かれるのは時間の問題だ。アメリカが意外に多くないように思えるが、医師だけじゃなくてコメディカル、スタッフが文字通り桁違いに多い。日本は何でもかんで医師がやることになっているうえに、これだけ少ない。明らかに限界に来ている。 

女医の割合が増えていることも問題視されている。女性のライフサイクルの中では、フルタイムで働けない時期がある。医師がここまで不足していなければ、そのように女性にも働きやすい職場をつくるという解決策もあるだろうし、そのようなサポートで何とかなったと思う。しかしここまで不足してしまうと、たとえ職場側で配慮したとしても、その"優遇"を受けている側が他の医師に対して申し訳ないという気持ちから耐えられなくなってしまう。その結果、完全に辞めてしまうという悪循環だ。 

看護師も足りない。看護協会も、現場で看護師がどれだけ看護師じゃなくてもできる仕事に追われてイヤになって辞めているか直視した方がいい。7対1、10対1というけれど、DPCだと補助者を入れても点数がつかない。結果として、徘徊する患者を看護師がつきっきりで見るというような勿体ないことになっている。介護を担う補助者も適切に配置した統合した病棟が必要だし、そうしたものを含めた医療計画や診療報酬体系が必須だ。 

  では今度、お金は足りているのか。 

 千葉県立病院の医業収益比率は135.4%。100円稼ぐのに136円使っている。これを診療報酬だけで成り立たせようと思ったら36%上げないといけない。差額は税で補填している。 

 都立病院はもっとすごい。医業収益比率が146.7%なのに、もっと補填して黒字にしている。これが果たして保険医療か。 

 全国の自治体立病院を見渡してみても、医業収益比率は悪化の一途だ。日赤とか社会保険病院とかを含めた公的病院で見ても、やはり医業収益比率が100を上回っている。私的病院も補助金頼みで何とかやっている。要するに、医療は単独の産業としては持続可能でない状態だ。 

 公的病院の医療は保険診療と言えるのか。 

公的病院には診療報酬以外に他会計から多額の繰り入れが行われている。診療報酬が下がれば、繰り入れを増やすという処理で対応してきた。その結果、財政基盤の弱い自治体が開設している病院の多くが財政の危機に直面している。補填できない自治体は、自身が倒産するか、病院を閉鎖するしかない。これがまさに銚子で起きたこと。病院を閉鎖しないと夕張になってしまう。 

 亀田には415人の常勤医がいる。日本の中では病床数に対して非常に多い。しかし看護は10対1しか取れていない。7対1にしたくても、看護師を自治体病院と取り合いになって、自治体病院の方が給料が高いので負けてしまう。自治体病院並みの給料にしたら一瞬のうちに亀田も破綻してしまう。 

 こちらは診療報酬だけでやっていて、公的病院には他会計からの繰り入れがある。その公的病院の方が給料が高いというのは、まさに民業圧迫だ。繰り入れの原資は税だが、これは出所が誰だか分からないようにマネーロンダリングしたうえで、そのお金を使って診療報酬以上の医療を提供しているわけだから、混合診療と一体何が違うのか。このこと一つとっても既に保険診療は破綻していると言える。 

 本来、公的病院の給料の額というのは働きに対して社会的に妥当と考えられる相場なわけだから、民間病院の多くが給料が安すぎるとも言える。民間病院の多くは、医師の過重労働や病院職員の低賃金などの犠牲の上にかろうじて成り立っているのである。 

 公的病院並みの給与にしても民間病院がやっていけるだけの診療報酬体系であるべきというのが筋論だが、現実問題として保険にそれだけの余裕がない以上、公的病院の人件費の無駄も何とかした方がいい。自治体病院では、看護師よりも准看護師の方が平均給与が高く、さらに事務職員の方が高いという逆転現象が起きている。ここにメスを入れない限り、どうにも身動きが取れない。 

 旭中央は、こうした公的病院のくびきから脱しようと社会医療法人になろうとトライしたが議会に阻まれた。このトライは正しかったと思う。旭中央は、まだ退職金を払えるだけの体力がある。しかし多くの自治体病院は退職金を払うことができず、病院を整理しようにもできない。