蘇れ医療!  海の向こうに学ぶ、過熱する「医療ハブ」争い、競争力は磨かれてこそ



『蘇れ医療!  海の向こうに学ぶ、過熱する「医療ハブ」争い、競争力は磨かれてこそ』 
2009/01/15, 日本経済新聞  

 海外からの患者受け入れへ、金融危機が押し寄せる韓国や中東でも国を挙げて動き出した。 

 地上20階、地下5階、ベッド数約1300床の財閥系病院「サムスンソウル病院」。心臓病や泌尿器疾患治療のために訪れる外国人は2007年、226人を数え、05年の64人から急増した。ロシア人やモンゴル人が多く、専門部署の国際診療所には英語が堪能な医師・看護師のほかロシア語通訳も置く。

 国内で確立したブランド力を外国人にも浸透させようとの姿勢は、重工業や電機、自動車を海外に売り込んだイメージとも重なる。「アジアの医療ハブ(拠点)になる可能性を感じる」。国際診療部長のイ・ガンウは野心を隠さない。 

「観光」を柱に育成 
 「従来、日本で治療を受けていた外国人も来るようになった」。韓国政府は治療や健診だけでなく、観光でも外貨を落とすメディカルツーリズム(医療観光)を医療産業の柱の一つに育てようとしている。「医療ビザ」も新設し政府が病院を後押し。深刻なウォン安も追い風に変える。 

 韓国、シンガポール、タイ、インド……。新興国は医療ハブを目指し覇を競う。人口増と高齢化が待ち受けるアジアは、医療サービスへの需要が高まることが確実。高齢者の医療に追われる日本は、世界トップレベルの医療水準を持ちながら、存在感は薄い。医療マネーは日本を素通りする。 

 1997年のアジア通貨危機で倒産寸前になり、外国人誘致に活路を見いだしたバンコクのバムルンラード病院。海外24カ所に診療予約や渡航を手配する事務所を置き、ホテルまで併設。「入院もホテルのように快適であるべきだ」との患者第一主義を貫く。 

 08年11月末から約1週間、デモ隊が国際空港を封鎖した際も、薬が手に入らなくなった邦人が毎日約30人訪れたが、日本語係が即座に対応した。 

 マーケティング部長のケネス・メイスによると、同じ治療にかかる費用はインドより1割高いものの、シンガポールより1―2割、米国より6―8割安い。この価格差は医療分野でも国際競争力を持つ。07年の延べ患者約120万人のうち、海外からの来院は約32万人、収入面では45%に達した。外国人の3割はアラブからだ。 

 アラブ首長国連邦(UAE)から先端医療を求め海外に流れる医療費は年間20億ドルに上る。そのマネーを手元に戻そうと、患者受け入れへ名乗りを上げた。 

 ドバイは、経済特区ドバイ・ヘルスケアシティーを中心に、米ハーバード大など欧米の有力大学や医療機関と提携、最先端の医療施設や研究施設をホテルやスパなどと一体で開発する。アブダビでも大型医療施設の整備が進み、金融危機で不動産業などが収縮する中、新たな外貨獲得策確立が急務となっている。

日本は認証ゼロ 
 人材不足と医師偏在が重荷となる日本も、手をこまぬいていてばかりでは質にまで影響を及ぼしかねない。経済産業省は「医療は極めて将来性の高いサービス産業。低コストで長寿を実現した日本は、潜在的な国際競争力はある」とみる。だが、国内ニーズに発想を縛られた病院は、海外からの患者受け入れの機会を逃すことにも気が付かない。 

 その一例が、海外の民間保険の使いづらさだ。欧米の保険会社が保険を適用する目安である国際的医療認証機関「JCI」(米ワシントン)。アジアの著名病院が軒並み認証取得に走る中、日本はいまだゼロ。 

 安全、治療の質、院内感染対策など800数十項目の審査を受ける。認証を目指し準備を始めた千葉県鴨川市の亀田総合病院。理事長の亀田隆明(56)は「診療の流れを患者の目線でチェックする徹底ぶり」と審査の厳しさを話すが、「医療の質向上により国内の患者にも貢献できる」。 

 これまで様々な産業が国境を越えた競争にもまれて力を付けてきた。医師不足や医療費増大など閉塞(へいそく)感が漂う中、打開のカギは今回も海外にあるのかもしれない。=敬称略 

(「蘇れ医療」取材班) 

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