財務相の諮問機関、財政制度等審議会が2010年度の予算編成に向けた意見書を出した。10年度は原則2年に1度の診療報酬の改定に重なることもあり、医療問題に多くの分量を割いた。




財制審、医療に異例の提言――「財源論の前に規制改革」
 
2009/06/10, , 日本経済新聞  

 財務相の諮問機関、財政制度等審議会が2010年度の予算編成に向けた意見書を出した。10年度は原則2年に1度の診療報酬の改定に重なることもあり、医療問題に多くの分量を割いた。医療従事者の役割見直しなど制度改革の方向性に踏み込んだのが目を引く。 

 例年この時期に財制審が出す意見書は、翌年度の予算編成の大枠について考え方を示すものだ。今年の波乱要因は衆院選。秋までに国会の新勢力図が決まる。その結果によっては予算編成の枠組みや進め方が変わるかもしれないが、時間の制約もある。財務省は淡々と作業する構えだ。 

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 未曽有の経済危機は財政政策の規律をゆるませた。国と地方自治体が抱える長期の借金残高は、国内総生産の1.7倍近くに膨らむ。意見書が前文に指摘するように、まさに「わが国の財政は危機的」だ。 

 当初、財務省は「危機的」という表現を盛り込むのに慎重だった。財制審委員の粘りでこの表現は残ったが、財政当局の及び腰は今の政治状況をよく物語っている。 

 ここ数年の予算編成の論点の第一は、社会保障費の伸びをどう抑えるかにある。今年は1947~49年に生まれた団塊世代がすべて60代に達する。高齢化が加速し、医療だけでなく年金や介護保険も今のままでは制度が危うくなる。 

 麻生太郎首相は景気回復後に消費税率を上げて安定財源を確保すると表明しているが、それまでの間にも国民負担の拡大を求めなくともできることがあるのではないか――。意見書にはこうした問題意識が表れている。 
  


 医療の再生策では次のような提案をした。 

 まず地域間や診療科ごとの医師数の偏りをやわらげるために、状況が厳しい分野に診療報酬を重点配分する。今は診療報酬を全体でどの程度上げ下げするかを内閣が決め、その配分は厚生労働相の諮問機関、中央社会保険医療協議会(中医協)に委ねている。 

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 意見書は「中医協以外の場でも医療費の配分を幅広く議論し、中医協の決定に適切に反映される必要がある。中医協のあり方の見直しも検討する必要がある」と訴えた。ある省の審議会が他省の審議会にこれだけ強い調子で注文をつけるのは異例だ。医師偏在の問題などに中医協がきちんと答えを出していないことへのいら立ちが読み取れる。 

 さらに一歩踏み込む問題提起もした。医師の診療科の選択に一定の制限を加える、患者がどの病院や診療所でも自由にかかれるフリーアクセス制を再検討するなどだ。関係者の間で賛否が分かれ議論が沸騰するのは確実だが、重大な論点を外からの視点から投げかけた意味は大きい。また、高い技術を持つ看護師には医療行為の一部をもっと委ねてもよいのではないかとも提起した。 

 規制強化と規制緩和をうまく組み合わせて、医療の制度疲労をやわらげる。元来これは厚労省の仕事だが、同省も組織の制度疲労を起こしかけている。意見書はそんな一面を浮き彫りにした。 
  
(編集委員 大林尚)