安房医師会病院は、亀田に救われて間に合いました。間に合わなかった銚子との違いは何だったのか




安房医師会病院は、亀田に救われて間に合いました。間に合わなかった銚子との違いは何だったのか』 

千葉の医療がひどくなった原因は、一貫性のない無責任な堂本県政の8年間にあると思います。森田知事は、堂本路線を否定できる立場ですから、なんとか地域に密着した政治家と協同して、県の医療政策に筋を通したいと思っています 
もう1人の演者の亀田信介・亀田総合病院院長には、医療崩壊の処方箋があるかを聞くつもりです。私はあると思っている。チームが崩壊する前に救出することです。安房医師会病院は、亀田に救われて間に合いました。間に合わなかった銚子との違いは何だったのか聞きたいと思っています。 
これ以上 千葉を崩壊させない。 



2009年5月27日 ロハス・メディカル  3月末まで千葉県がんセンター長を務め、この程『医療構想・千葉』というシンクタンクを設立する竜崇正氏にインタビューした。(川口恭) 


りゅう・むねまさ●1968年、千葉大学医学部卒業。92年、国立がんセンター東病院手術部長。99年、千葉県立佐原病院院長。2005年、千葉県がんセンター長。 


――『医療構想・千葉』とは何ですか。 

医療に関するシンクタンク的ネットワークです。医師や患者という立場を超え、医療現場から声を出し合い、熟議し、実効性のある医療ビジョンや政策提言を打ち出して、政治家、行政、マスコミに伝えていきます。政策提言するだけでなく、もし医療をないがしろにする政治家がいれば、「選挙で落とすぞ」という強いメッセージも出していきたいと考えています。 

――なぜ、つくろうと考えたのですか。 

銚子市民病院のことなど皆さんもご存じと思いますが、千葉県では全国を先取りするような形で医療崩壊が進んでいます。私は、その大きな原因が過去8年の堂本県政にあると考えたので、森田健作氏が当選した3月の知事選に出馬しようかと真剣に思い詰め、記者クラブで会見までやりました。会見後に全候補が私の政策を取り入れると約束してくれたので出馬しなかったのですが、結局のところ知事選で医療は争点にならず、しかも私の政策が実行に移されるメドも立っていません。私を応援しようと集まってくれて、この間の経緯を眺めていた医師、看護師、患者体験者、学生といった方々の間で、もはや自分たちで何とかするしかないと機運が盛り上がってきて、結成することになりました。そういう学生さんやボランティアたちで、13日のシンポジウムの準備はどんどん進んでいます。 

問題を解決するには、内輪で文句を言っているだけではダメです。最終的には政治を動かさなければならないし、政治は投票によってしか変えられない。投票を変えるような国民的議論を起こすには、まずマスコミを巻き込まなければならない、そういう連鎖を起こすにしても、最初に現場が声を上げない限り、何も始まらないでしょう。 

現実問題として、何らかの組織のあった方がマスコミに取り上げられやすいというのもあります。3月まで私は県の医療職トップとしてポジションパワーを持っていたので、個人として情報発信できましたし、マスコミにとってニュース価値もあったと思います。でも4月からは、そういうわけにいきません。一方、県職員の立場では、県の方針に異を唱えるようなことは非常にやりづらかったのですが、これからは自由に発言できます。裸になって、もう一度同士の人たちと一緒にやっていきたいと思っています。 



――何が根っこの問題ですか。 

医療の現実について、国民に正しく情報が伝わっていないと感じています。現場を知らない厚生労働省の医系技官が、無責任に適当な通知を出して現場を引っかき回し、その結果として医療が崩壊への道をまっしぐら突き進んでしまっています。 

彼らの政策の背景には医療費亡国論があるようです。しかし、あんなものは高齢者が増えるから医療費が大変だ、という一つの仮説に過ぎません。仮説とそれに基づく政策がどのような効果を与えたのか、現状把握と検証とを繰り返しつつ次の仮説と政策へと進むのが科学的に当然のあり方なのに、彼らは全く検証をしません。政策失敗の責任も取りません。 

最近では、臨床研修制度が非常によい例です。医局主導の研修の何が悪かったのかも十分に検証しないまま導入して、結果的に特に千葉県では夜間救急が穴だらけになりました。研修医に当直もアルバイトも禁止したわけですから、夜間の人が足りなくなるのは当たり前です。恐らく官僚たちは夜間救急を誰が担っていたか知らなかったんでしょう。そもそも医学部でOSCEなどやっているのに、同じようなことを卒後にさせる意味がよく分かりません。さらに、その制度の何が良かったか悪かったかも検証しないまま、また小手先で制度をいじり始めています。 

彼らが検証しないのであれば、現場から意見を出さないといけないと思います。そうしないと、せっかく世界トップクラスに育っていた日本の医療が崩壊してしまいます。 


――なぜ、今まで現場から声が上がらなかったんでしょう。 

確かに発言しなさ過ぎでした。言ってもどうせ変わらないとあきらめていたのが一つ。それ以上に、目の前のことを一生懸命やっていれば、医師は満足できて幸せだった、社会も尊敬してくれた、ということなんだと思います。目の前の患者さんに没入して週100時間労働する、それが医師として当たり前の働き方でした。 

そういった現場の状況を踏まえて官僚が政策立案していれば、随分と状況は違っていたと思います。医系技官は医師免許を持っているといったって、患者さんを看取ったこともなく、悲嘆にくれる患者さんと共に泣いたこともないわけです。だから我々は、彼らが現場を知らないと言うのです。 



――お話を伺っていると全国的な話で、千葉県で括る理由もなさそうですが。 

もちろん全国共通の課題ですから、よその地域とも連携していきたいと思っていますが、千葉県に住んでいる以上、まず千葉県の問題からやろうということです。Think Globally Act Locallyです。先ほど申し上げたように、千葉ならではの状況もあります。 

――千葉ならではの状況を、もう少し詳しく教えていただけますか。 

千葉県は620万人も人口があるのに、医学部が千葉大1カ所にしかありません。隣の東京都は人口1千3百万人いても医学部も13ありますから、その差は大変なものです。その千葉大1つで地域医療の施設から高度先進医療の施設まで、県内の公的病院ほぼ全部を支えてきました。ところが臨床研修制度開始までは、研修医が毎年180~200人程度入っていたのに、制度開始後は80人も入らないようになってしまったのです。卒業生も3割しか残りません。当然のこととして公立病院に千葉大から人が来なくなった。それが5年間続いたことによって、公立病院は限界近くまで人が足りなくなっているんです。 

銚子市民病院だけではなく、態勢縮小や崩壊の危機が論じられている公立病院もいくつもあります。新型インフルエンザ騒動は、成田赤十字病院にもボディーブローのように効いているはずです。このままだと3年もたずに、悲惨な状況が起きるでしょう。今のところ何の対策も取られていません。 

県立病院には病院事業管理者がいて、しかも雇用条件は県の規則で決められているのに、医師を確保するのは病院長の責任なんです。県立佐原病院の院長だった5年前、臨床研修が始まれば医師が減少することを見越して、医師定員26人のところ一時的に28人雇ったら、県から文句が出て苦労しました。雇える時に雇っておくべきなのにねえ。その時、銚子市民病院には38人の常勤医がいて羨ましく感じた思い出があります。それが、あっとういう間にあの状態です。壊れ始めたら早いんです。 


――千葉県出身者として背筋が寒くなります。 

悪い話ばかりではありません。千葉県には医療資源はあるんです。亀田総合病院と旭中央病院という全国から医師が集まる臨床研修指定病院が2つもあります。それから、がん領域に関しては、国立がんセンター東病院、放射線医学総合研究所という世界に冠たる施設がありますし、千葉県がんセンターも含めて研究施設の集積もあります。国際空港も持っています。人口が多いですから、それなりに税収もあります。きちんとした医療政策さえあれば、崩壊を食い止められると思いますし、それだけでなく医療産業が興って経済を支えるような素地は十分にあるとも考えています。 

ただし、あまり時間的な猶予はありません。医療資源とは、設備ではなく人であり、単なる人ではなくチームです。医師や看護師だけいてもチームになりません。受付の人や会計の人や掃除の人まで全員引っくるめたものがチームです。そういうチームを作るのには時間がかかる一方で、一度壊したら一気にゼロに戻ってしまいます。今頑張っているチームを維持できるよう早急に手当てをしないといけません。まずは、そこが一番大事です。 



――お金が必要ですね。 

そうですね。政治を動かす必要があると考えています。以前は自治体が病院を持っていると交付金をもらえて、それなりに財政的にも助かっていたと思うのです。でも、診療報酬引き下げに続いて交付金ももらえなくなって、そうなると病院の赤字がケシカランと言い出す政治家が多くて困ります。とにかく政治家に二世かタレントしかいなくて、口先はともかく国全体のことを考えている人がいませんよね。 

それとマスコミ。自分たちで物を考えず、どこの誰が言ったのか本当かも分からない情報を垂れ流して医療崩壊を招いた戦犯だと思います。ただ、そうは言っても彼らの力は大きいのです。福島県立大野病院事件にしても、草の根の運動、ネットでの盛り上がりの後に大マスコミが続いたから、無罪判決が出たと思います。彼らは権威主義的で、草の根から始める場合には興味を持たせるようにしないといけないので、上手に巻き込んでいきたいと考えています。 

ただ、どうしても納得いかないのが、これは特定の人の利害ではなく全国民の利害に関連する問題ですよね。そもそも人類始まって以来、これだけ長寿の社会になったことなんかないんです。医療とか年金とかの制度は、定年後5年で死ぬという前提で作られてきたものですから、定年後20年間負担したくありませんけど社会で面倒みて下さいでやっていけるはずありません。制度を作り直さないといけないのは分かり切っているのに、どうしてマスコミの人たちはキャンペーンを張ったりしないんでしょうか。自分たちの仕事が何かを忘れているんじゃないかと思います。 


――マスコミにとって、霞が関は大事なネタ元ですから、一緒に構造が硬直化してしまったというのはあるんでしょうね。 

霞が関の構造が限界なんだと思いますよね。別に彼らが悪人とは思いませんけれど、思いつきのような通知を出すと、皆が一斉に従う。しかも責任を取らなくてもいい。一度味を覚えたら、止められないでしょう。 

――政治家、行政、マスコミに伝えていくんだというお話で、まず13日にシンポジウムがあります。どのような仕掛けをしましたか。 

主だった方々には案内状を出します。彼らが何に関心を持っているかによりますので、来てくれるかどうかは分かりません。まずは、その模様をネットメディアなどで報じてもらうことで、後日じわじわと効いてくるというのもあるのではないですか。 

シンポジウムの演者である小松秀樹・虎の門病院泌尿器科部長には、日本の医療崩壊の現状を話してほしいと頼みました。千葉の政治家や行政の人たちは、地域だけを一生懸命見て地域だけで努力しても病院は守れないことを知らないと思います。銚子がいい例ですが、みんな病院を守ろうと頑張ったんですよ。でも結局、地域レベルではどうにもならないことだった。だったら県や国を変えようと考えてもいいはずですが、まだそう発想が向かないところが今の限界なんでしょう。まず政治家に、日本全体の状況を知ってもらおうと思います。 

もう1人の演者の亀田信介・亀田総合病院院長には、医療崩壊の処方箋があるかを聞くつもりです。私はあると思っている。チームが崩壊する前に救出することです。安房医師会病院は、亀田に救われて間に合いました。間に合わなかった銚子との違いは何だったのか聞きたいと思っています。 



――翌14日には、汚職で逮捕された千葉市長の後任を選ぶ選挙がありますよね。何らかのアピールを狙ったんでしょうか。 


私自身は特に意識していませんでしたが、メンバーの中には、そう考えている人もいるかもしれません。千葉市は、政令指定市で大きな市民病院を2つ持っているのに、ずっと県に頼り切りでした。新市長が本気で動いてくれるならインパクトはありますね。 

繰り返しますが、ここまで千葉の医療がひどくなった原因は、一貫性のない無責任な堂本県政の8年間にあると思います。森田知事は、堂本路線を否定できる立場ですから、なんとか地域に密着した政治家と協同して、県の医療政策に筋を通したいと思っています。 
(インタビューは、ここまで)