「いつまでたっても社保病院をどうするのか具体的な計画は何一つ決まらない。犠牲者が出てからでは遅い」



「いつまでたっても社保病院をどうするのか具体的な計画は何一つ決まらない。犠牲者が出てからでは遅い」 

(現場から)社保病院、中ぶらりん 売却足踏み、増床棚上げ 
2009.04.25朝日新聞   
  

 社会保険庁が設置した社会保険病院(53カ所)の施設整備が宙に浮いている。社保庁の不祥事などをきっかけに、政府・与党は全病院の売却を決めたものの、いまだに具体的な整理合理化計画を示していない。将来の見通しがつかず、病院側は医療体制を充実しようとしても身動きできない状況で、地域医療への影響も懸念されている。 

 (高橋福子) 


 東京都北区によると、区内の主な分娩(ぶんべん)施設は、東京北社会保険病院(280床)と産婦人科の診療所(5床)。07年の出生数は2252人で、うち2カ所で生まれたのは436人。他の区の分娩施設も使わざるを得ない状況だ。24時間体制の小児救急もあり、07年度の小児科の時間外受診は約1万1千件。北区は「東京北病院は、ぜひ残してほしい」と訴える。都も「地域医療への貢献度は非常に高い」と期待する。 

 こうした要望を背景に、同病院は産科と小児科の増床を検討中だが、売却先が事業運営をどう考えるのか、売れ残った場合は受け皿や事業継続の有無がどうなるかなど、先行きが不透明で、計画を進められないという。 


 
●不祥事で計画遅れ 

 政府・与党は02年、社保病院の売却・統廃合や、保険料による施設整備中止の方針を打ち出した。06年度までにどの病院をいつ売却したり、統廃合したりするかを示す整理合理化計画を策定する予定だったが、社保庁の不祥事が相次ぎ、計画策定は棚上げに。厚生労働省は3月、ようやく53カ所のうち社会保険浜松病院(浜松市)の売却を正式に決めた。 

 浜松病院は02年に建て替え用地を確保したものの、政府・与党の売却方針を受けて計画を凍結。建物や医療機器の老朽化は進み、3月に外来診療と入院は休止、4月からは健康診断だけを行っている。 

 市の担当者は「売却という大きな枠組みしか示されず、ずっと不安だった。存続してほしいと要望を続けてきたが、こうなった以上は一日も早く譲渡先を見つけ、診療を再開してほしい」と話す。 


 
●地域医療に影響も 

 社会保険相模野病院(神奈川県相模原市)は、救急やハイリスク分娩に対応する地域周産期母子医療センターで、分娩数は年間約1千件。数年前から保険料以外の独自財源での増床を厚労省に求めてきたが、認められなかった。分娩施設の不足や周産期救急の不備が社会問題化し、今春、承認された。 

 内野直樹院長は「いつまでたっても社保病院をどうするのか具体的な計画は何一つ決まらない。犠牲者が出てからでは遅い」と話す。 

 社保庁は「地域医療に支障が生じているのかどうかは、個別の状況を吟味しないと分からない」としている。 



 ◆キーワード 

 <社会保険病院> 旧政府管掌健康保険の保険料で整備されたが、赤字経営などから「保険料の無駄遣い」と批判を受け売却が決定。昨年10月、「年金・健康保険福祉施設整理機構」に移管。厚労省は3月、地域の医療体制が損なわれないよう、自治体の意見を聞きながら医療法人などへ来年10月までに売却する方針を示した。