救急病院など急性期医療を担う病院と、そうでない病院の役割分担を明確にするべきではないでしょうか。・・・


救急病院など急性期医療を担う病院と、そうでない病院の役割分担を明確にするべきではないでしょうか。患者と看護師の比率が7対1になれば、診療報酬は増額されますが、10対1でも病院経営は可能です。急性期は7対1、それ以外は10対1という線引きも有効だと思います。急性期の病院を退職した人が、ケア中心の病院に移るようなシステムを看護協会が作っていければ、と思っています。(兵庫県看護協会会長・大森綏子(すいこ)さん) 
国は大学医学部の定員を増やしましたが、効果が出てくるのに10年、15年かかります。それに、定員を増やしなさいというなら、もっと補助を打ち出してほしいです。現状はスタッフが足りず、研修医を教えることで精いっぱいです  本当に治療が必要な人とそうでない人を、分けるような体制づくりが重要だと思います。(神戸大医学部付属病院院長・杉村和朗さん) 




多様化する医療現場 “地域医療”役割分担明確に・特集=兵庫 
2009.03.29読売新聞  
  

 ◇兵庫県看護協会会長・大森綏子(すいこ)さん 神戸大医学部付属病院院長・杉村和朗さん 

 医師や看護師不足が社会問題となり、県内でも明石市立市民病院や西宮市立中央病院、県立尼崎病院など、産婦人科や小児科を中心に診療科の休止や縮小が相次いでいる。問題の背景には何があるのか。神戸大医学部付属病院の杉村和朗病院長と、県看護協会の大森綏子会長に話してもらった。 

 ◆新人看護師の離職率14.1% 職場復帰のサポートを 

 大森 医師や看護師の不足について、医師の立場からはどうみられますか。 

 杉村 医療が多様化、高度化し、医師の仕事が増えたことが根本にあると思います。がんを例にすると、手術や放射線、抗がん剤など数多くの治療法があります。きめ細やかな治療を行うことで、今までより何倍もの時間がかかり、医師が足りなくなっています。欧米では医師の10~20倍のスタッフがサポートするチーム医療が行われていますが、日本では書類作成など診療以外も担っており、負担が大きくなっています。 

 大森 看護師も人手不足です。2006年4月の診療報酬改定で、看護師1人に対し、患者7人という新たな基準が導入され、「人手不足になった」とも言われますが、それだけが原因ではありません。新任の場合は習ったことと実務とのギャップ、中堅になれば自らの仕事と子育ての両立など、悩みを抱えて辞める人も目立ち、人手不足に拍車をかけたと思います。 

 杉村 どんな手立てが有効でしょうか。 

 大森 救急病院など急性期医療を担う病院と、そうでない病院の役割分担を明確にするべきではないでしょうか。患者と看護師の比率が7対1になれば、診療報酬は増額されますが、10対1でも病院経営は可能です。急性期は7対1、それ以外は10対1という線引きも有効だと思います。急性期の病院を退職した人が、ケア中心の病院に移るようなシステムを看護協会が作っていければ、と思っています。 

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 大森 06年の厚生労働省の統計によると、県内の人口10万人あたりの従事医師数は203・4人と全国平均(206・3人)を下回り、同じ年度に日本看護協会が行った実態調査では新人看護職員の離職率が全国最悪の14・1%(全国平均9・2%)となっています。 

 杉村 兵庫県は人口約560万人の大きな県なのに、県内には医学部のある大学が2つしかなく、毎年200人しか医師が生まれないのが最大の問題です。日本の縮図とも呼ばれるように、大都市からへき地まであり、数字以上に医師不足は深刻ということを、身をもって実感しています。 

 大森 看護師の場合、県内の専門学校の卒業生は、80%が地元で就職しますが、大卒の看護師は50%程度です。いかに県外に流出させないようにするかが重要です。 

 ◆北部、西部で深刻な医師不足 集約化と高度化が必要 

 大森 医師不足への対策は何かありますか。 

 杉村 国は大学医学部の定員を増やしましたが、効果が出てくるのに10年、15年かかります。それに、定員を増やしなさいというなら、もっと補助を打ち出してほしいです。現状はスタッフが足りず、研修医を教えることで精いっぱいです。 

 大森 看護師の場合、定年退職をした人を活用できないか考えています。出産などで休職し、復帰する人をサポートするようなシステムがあればと思います。 

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 大森 行政はどうかかわっていくべきでしょうか。 

 杉村 医師が減っても病院は機能を維持させようとするため、現場では仕事量が増えます。医師はある程度までは頑張りますが、限界を超えることもあります。県内では北部と西部が深刻で、先日、県と神戸大が県立柏原病院(丹波市)への診療支援の協定を結びましたが、現状では、中核病院だった頃の態勢に戻すのは難しいと言えます。「機能をどこまで確保するか」「医師がどれくらい必要か」と、県と相談して、地域と行政が役割分担をしていく必要があります。大学側も、いつまでも医師を派遣するのは難しくなっています。 

 大森 私も但馬の医療を考える会に入っていましたが、検討会では行政、公立病院、開業医、議員が一緒になって、意見を出し合いました。神戸大も医師を派遣してくれていますが、住居を完全に移してもらうのは難しいのが実情です。このため、週末は家族の元に帰ってもらい、地域の開業医が診察を担当するような仕組みが整備されました。行政が間に入って調整することの必要性を実感しました。 

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 大森 診療科の休止・縮小も相次いでいます。 

 杉村 例えば、産婦人科ですね。自宅の近くで出産することが難しくなっています。産科と小児科は、集約化、高度化の方が患者にとってもメリットがあると思います。 

 大森 正常分娩(ぶんべん)は助産師が担い、異常分娩は病院で対応するのがいいのではないでしょうか。役割分担すれば、現場の負担を軽減できます。小児科も相談電話(#8000)でアドバイスすれば、実際に診療しなくて済むケースが多いと聞きます。 

 杉村 救急も問題ですね。24時間体制なので医師の数は3倍必要ですが、病院に金銭的余裕はありません。県立加古川病院で救急医療を強化しようとしていますが、こうした問題に直面しています。 

 大森 救急では最近、姫路、伊丹両市で搬送を断られ、亡くなった人がいましたね。手術などで手がいっぱいの時に、消防からの患者受け入れ要請にどう応えるのか、地域で考えることが重要ではないでしょうか。 

 杉村 インフォームド・コンセントも負担を大きくしているように感じます。今は丁寧に説明すればするほど、次の人を待たせることになってしまいます。医師と患者の間にソーシャルワーカーに入ってもらえるような体制ができればと思います。 

 大森 医師の説明で納得してもらえない場合、看護師が行う時もありますよ。 

 杉村 やはり、本当に治療が必要な人とそうでない人を、分けるような体制づくりが重要だと思います。 


 ◇県の主な医療施策(2009年度、カッコ内は予算額) 

 【医師確保】 

 ◇医師派遣緊急促進事業 

 (2億2500万円) 

 県医療審議会が医師派遣の調整を行い、医師不足の解消を図る。 

 ◇へき地医師確保特別事業 

 (1億1000万円) 

 兵庫医科大、神戸大、鳥取大に開設した特別講座で、へき地の医療機関を拠点に診療を通じた地域医療研究と学生の指導を行う 

 ◇後期研修修了医師の採用 

 (750万円) 

 後期研修修了医師を県職員として採用し、地域の公立医療機関へ派遣する。 

 【看護職員の確保】 

 ◇看護職員離職防止の推進 

 (721万円) 

 看護師の資質向上と新卒看護師などの離職防止のため、看護師養成所の専任教員と看護師を対象とする研修体系を策定する 

 ◇看護職員臨床技能の向上 

 (842万円) 

 医療の高度化への対応と在宅医療の推進を図るため、高い水準の看護ができる認定看護師を養成する 

 ◇がん専門分野における質の高い看護師の育成(763万円) 

 臨床実務研修を通じて、専門性の高い看護師を育成する。