岩手県立病院の新しい経営計画で無床化が決まった九戸地域診療センター(19床)。常勤医1人のセンターの夜間当直を支えるのは、佐藤さんら二戸病院からの応援医師たちだ。副院長でもあるベテランの佐藤さんが盛岡の自宅に帰れるのは月に1、2度だけ。そして若手ほど、勤務状況は厳しくなる。



 岩手県立病院の新しい経営計画で無床化が決まった九戸地域診療センター(19床)。常勤医1人のセンターの夜間当直を支えるのは、佐藤さんら二戸病院からの応援医師たちだ。副院長でもあるベテランの佐藤さんが盛岡の自宅に帰れるのは月に1、2度だけ。そして若手ほど、勤務状況は厳しくなる。
 


(地域医療はいま:1)勤務医の激務 応援医師が当直支え /岩手県 
2009.03.19朝日新聞  
  「きょうは九戸で泊まりだから」。2月26日午後5時半、県立二戸病院の副院長、佐藤昌之医師(53)はそう断り、二つ目の打ち合わせをキャンセルして慌ただしく会議室を出た。白衣を脱いで自家用車のハンドルを握る。向かった先は九戸地域診療センター。二戸病院から約20キロ、30分間の道のりだ。 

 二戸病院には佐藤さんを含め4人の産婦人科医がいる。この日は木曜日、佐藤さんは「病棟当番」。午前8時半からの外来診察を1時間ほどで切り上げ、約40人の入院患者を一人で受け持った。

 慌ただしくなったのは、午後から。午後2時半から30分ほどかけて卵巣がんの患者に抗がん剤を注射。直後、切迫早産の患者から「破水したかもしれない」との訴えが飛び込んだ。検査し、「5時半ごろにもう一度チェックして」とカルテにペンを走らせ、看護師に指示を出す。会議まであと25分。出席を促す携帯電話の着信音にせかされながら駆け足で25人を回診した。 



 ●帰宅月1、2度 

 県立病院の新しい経営計画で無床化が決まった九戸地域診療センター(19床)。常勤医1人のセンターの夜間当直を支えるのは、佐藤さんら二戸病院からの応援医師たちだ。入院患者の体調急変と夜間の救急外来に備え、副院長や診療科長クラスのベテランが毎夜、交代で泊まり勤務に入る。夜間は医師1人、看護師2人の体制だ。 

 「九戸で泊まること自体が大きな負担なわけではない」と佐藤さんは言う。「心配なのは二戸病院。九戸の当直に人を出すことで、全体の負担が増えてしまう」 

 医師不足がひときわ厳しい産婦人科では、他の診療科に先駆けて08年度から医師の集約化が始まった。県北は、二戸病院の4人に県立久慈病院の1人を加えた5人で、すべてのお産を診る。二戸には、久慈からもリスクの高い妊婦が運ばれてくる。 

 急な出産などに対応するため、二戸病院の産婦人科は毎夜、交互に「お産当番」を組む。呼び出しに備え、病院にすぐ駆け付けられる範囲にいる必要がある。九戸で当直応援が入ったこの週、佐藤さんはお産当番から外れ、別の医師が入った。 

 副院長でもあるベテランの佐藤さんが盛岡の自宅に帰れるのは月に1、2度だけ。そして若手ほど、勤務状況は厳しくなる。 



 ●基幹病院に負担 

 常勤医30人の二戸病院が一戸、軽米の2病院と九戸地域診療センターに出す診療応援の回数は年800回。県立中央病院(盛岡市)に次いで多く、一人あたりの応援回数は県内最多だ。 

 二戸病院の佐藤元昭院長は「医師不足による過剰負担は地域診療センターでなく、基幹病院で起きている」と言う。地域診療センターは人も機材も乏しく、重症の救急患者を受け入れる力はない。九戸村で出動する救急車の9割が、二戸病院に患者を運ぶ。「そのためにも、二戸でしっかりとした受け入れ態勢をつくりたい」と無床化の必要性を訴える。 

 副院長の佐藤さんは九戸で当直を終えた金曜日の朝、応援のためにそのまま久慈病院へと向かった。日曜日までの3日間、久慈地域のお産は佐藤さんが責任を負う。働きづめのまま、月曜から再び二戸病院での勤務が待っている。 

    ◇ 

 県立沼宮内病院と地域診療センター5施設の無床化問題で明るみに出た、岩手の地域医療の危機。「今後10年間は解決できない」とされる医師不足に直面する現場の姿を報告する。 

 (この連載は上田輔が担当します)