週刊ダイヤモンド(8月15日/22日合併号)が「頼れる病院/消える病院」と いう特集を掲載していました。 マスコミが医療を取り上げて真剣に議論してくれるのは、医療従事者にとって大変ありがたいことです。現場で働いている者としては、「よくぞ取り上げてくれた!」と拍手喝采したくなるような気持ちです。



週刊ダイヤモンド(8月15日/22日合併号)が「頼れる病院/消える病院」と いう特集を掲載していました。 マスコミが医療を取り上げて真剣に議論してくれるのは、医療従事者にとって大変ありがたいことです。現場で働いている者としては、「よくぞ取り上げてくれた!」と拍手喝采したくなるような気持ちです。 

 ▽ 病院ランキングの「正しい」読み方 ▽ 
      武蔵浦和メディカルセンター 
  ただともひろ胃腸科肛門科 多田 智裕 
http://www.musashiurawa.jp/images/whatsnew/2009/090722.pdf 

2009年9月4日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 
               
素人にも分かる基礎知識そろってます。患者さんへの説明にご活用ください。『ロハス・メディカルweb』新装開設(もちろん無料)http://lohasmedical.jp 
ロハス・メディカル発行人 川口恭 
 皆様からのご寄附をお待ちしております!!出産の際に不幸にしてお亡くなりになった方のご家族を支援する募金活動を行っています。一例目のご遺族の方に募金をお渡しすることができました。引き続き活動してまいります。周産期医療の崩壊をくい止める会より http://perinate.umin.jp/ 

  

ついに政権交代が実現しました。それでも、医療現場に立つ私としては、何かもやもや感が残っています。 
 それは、選挙の争点として年金や医療に対する国民の関心は高いという調査結果が出ていたにもかかわず、 医療政策に関するマニフェストについて、ほとんど議論されないまま選挙が終わってしまったからです。 
 高速道路無料化とか、注目選挙区の人間ドラマも注目すべき点ではあったと思いますが、選挙前にあれだけ多くの時間を割いて報道されていた「たらい回し」という言葉はどこへ消えたのでしょう。一体、どの党のマニフェストがたらい回しをより少なくしてくれるのか。その検証は、ほとんどありませんでした。 
  
そんな中、「週刊ダイヤモンド」(8月15日/22日合併号)が「頼れる病院/消える病院」という特集を掲載していました。 
 マスコミが医療を取り上げて真剣に議論してくれるのは、医療従事者にとって大変ありがたいことです。現場で働いている者としては、「よくぞ取り上げてくた!」と拍手喝采したくなるような気持ちです。 
 一方で、独自の指標で作成した病院ランキングには、「これはちょっと違うんじゃないかな」と思う部分もありました。今回は、「よくぞ取り上げてくれた」部分と、病院ランキングについて率直に感じたことを検証してみたいと思います 


□よくぞ取り上げてくれた! 自治体病院の事務職員の高給この特集では、医療機能に加えて、経営状態で病院をランキングしていました。「医療は金もうけのために行うわけではないが、赤字垂れ流しの病院は患者に対して高度な医療サービスを提供できなくなる」という趣旨からだそうです。 
 そこで明らかになったデータの1つに、全国にある自治体病院の事務方の高給ぶりがあります。自治体病院の事務方は、大半が市役所や県庁からの出向です。民間病院の事務方が平均470万円なのに対して、自治体病院は690万円。なんと、その差は220万円もあったのでした。 
  
医師の収入では官民格差はどれくらいあるのでしょうか?ランキング上は僻地の医師の給与が2500万円超でトップを独占してしまっており、実態が見えてきません。 
 別ページのコラムで「まさにワーキングプア、非常勤医の年収は300万円台」と題した記事があり、こちらが参考になります。 
 実は、国立病院や大学病院の最前線を担っている医師は、多くが非常勤扱い。給与は年収120万~400万円程度がほとんどだということです。大学 病院の場合、常勤医師は助教以上ということですが、ポストは1つの講座で10程度しかありません。半数を超える医師は非常勤扱いということを意味しています。 
  
民間病院に移れば、少なくとも1200万~1600万円程度の収入を得ることができる人たちが、「年収300万円+アルバイト」で食いつないでいる状態なのです。つまり、医師の場合は官民格差が事務方とは逆ということになります。民間に比べて、給与が1000万円くらい少ないのです。 
  
人間って、遠くにいる人がどうしていようとあまり気にならなくても、近くにいる人との差には敏感なものです。医師だって人間です。例えば、同じ病 院で働いている事務方の人に、「先生たちはボーナスないんですよね。大変ですね・・・、まあ私たちはしっかりもらうことができますけどね。へへへ」と言われて(実話す)、それでも心が折れずに患者のために頑張ろうと思い続けられるでしょうか? 
  
開業医になり、数億円の借金を背負いながら事業収益2700万円を得るか、それとも安定した勤務医になって1500万円の給料を得るのか、どちらを選ぶかは悩ましいところです。 
  
そんなことよりも、あまり指摘されていませんが、週刊ダイヤモンドが明らかにしたような同じ病院内での「官民格差 VS 逆官民格差」の方が、はるかに深刻な公的病院崩壊の原因だと思うのです。 

□過酷な病床稼働率は経営のため 
 ランキングでは、病院の病床利用率を指標の1つとしていました。病床利用率90%以上が10点、80%以上が8点、70%以上が5点、70%未満 が3点といった具合に、点数を算出しています。解説では「病床利用率が80%以上ないと(経営上)厳しい」と書いてありました。しかし、これは想像を絶するほど過酷な条件です。 
  
利用率90%以上が満点となっていますが、これは実質、常に満床状態ということです。他業種のホテル業界と比べてみれば、どれほど厳しい条件なのか、分かっていただけるのではないでしょうか。 
  
同じ週刊ダイヤモンドで発表された2008年度のホテルの客室利用率ランキングを見ると、全国1位の小田急ホテルセンチュリーサザンタワーでやっと利用率90.9%です。これ以外に稼働率が90%を超えるホテルはありません。トップ5以外の客室利用率は、全て稼働率80%未満です。ちなみに、ホテルの損益分岐ラインは稼働率60%程度と解説されていました。 
 利用率が90%の状態で病院を運営し続けるのは、大変なことです。50席あるレストランで、平均45席が常に埋まっている状態を想像してみてください。スタッフの数はギリギリなのですが、一人ひとりの努力で入れ替えて回しているという状態です。 
  
病院が経営を成り立たせるためには、これほど過酷な条件でギリギリまで病床を埋めて運営しなければならないということです。ギリギリまで病床を埋めていたら、当然人手も足りなくなります。その結果、「満床による受け入れ不能」(「たらい回し」と報道されている)は、どれほど現場が努力しようとも頻繁に起き得るのです。 

□病床利用率を減らすとたらい回しが減る 
 たらい回しをなくすためには、「満床状態による受け入れ不能」な状態をなくす必要があります。ということは、ギリギリまで病床を埋めなくても病院の経営が成り立つようにすべきなのです。 
 「たらい回し」事件で有名になった都立墨東病院にしてもそうですが、実は産婦人科の救急センターは、救急分娩だけではなく正常分娩も取り扱っています。正常分娩ならば民間病院でも対応が可能です。しかし、救急センターは経営のために正常分娩を多数取り扱ってい 
るのです。 

 その結果、ベッドの90%近くが正常分娩の予約で埋まっているという事態が発生します。救急のためのベッドは、5~10%ぐらいしか空いていません。ですから、ちょっと救急車が立て込んだだけで(一晩3件以上発生すると)すぐに受け入れ不能になってしまうのです。 

 もしも、経営のために埋めなければならないベッドが70%で済むならば、救急対応用に30%のベットを確保できることになります。受け入れ不能の確率は大幅に減ることになるでしょう。 

 もちろん、その場合は、病床利用率を減らしても病院の経営が傾かないように、システムを改善しておく必要があります。例えば、点数改正のような方法が考えられます。 

 仮に、12人の患者を診察しなければ損益ラインに達しないところを、10人で損益ラインに到達するように、点数改正したとします。仕事量としては、約 15%減ることになります。たかが15%、されど15%です。たった10%の交通量を減らすことで渋滞が解消されるように、それだけで看護師さんは昼休み も休憩時間もしっかり取れるようになるはずです。 
  
このように病床稼働率が低くてもやっていけるように、つまりは病床に余裕を持って運営できるように、病院のシステムを変える必要があります。それなのに、それについても議論されることはあまりありません。 
 議論されるのは、もっぱら、いかに稼働率を上げて効率を上げるか、という現場を締めつける方法ばかりです。ホテル業界を見習って、60%の稼働率で損益ラインを超えるようにしようという声を聞くことはないのでした。 

□今のランキングでは「口コミ」と「かかりつけ医の紹介」を超えられない 
  
週刊ダイヤモンドのランキングによって、病院の経営上の問題点が浮き彫りになったのは間違いありません。でも、今度、同様の特集をする際は、本当にどの病院で受診すべきかという判断基準を提供するために、「医療の質」に関する指標をより充実させてほしいと思います。 
 診療科目数とか医師数だけでは、医療の質の判定にはつながりません、これだと大病院が有利になり、特に研修医が多くいる大学病院が自然と上位に入ってきてしまいます。 
 専門医がいるかどうかにしても、今でこそ専門医試験は厳しくなったとはいえ、実技試験なしのペーパーのみのテストです。10年前ならば書類審査のみで取得できていました。 
 これらの項目を基にしたランキングでは、そのまま「このランキングを信じて受診したらよい」とは言えないでしょう。 
 よく講演会やメールなどで、「私の住む地域の良い病院(医者)を紹介してください」、もしくは「良い病院の見分け方を教えてください」という質問 を受けることがあります。でも、結局「近隣の口コミ」や「かかりつけの先生に紹介してもらうのが一番確実」と答えるしかありません。それが一番信頼できる からです。それを超えるようなランキングを作ってくれることを期待したいと思います。