臨床研修の必修化は、まだ始まったばかりであり、改善すべき問題点は多々存在する。しかし、医師不足の原因となっているかと言えば、スタート時の2年間はある程度影響があったと思われるが、既に5年が経過している現在ではほとんど関係ないと言わざるを得ない。

 臨床研修の必修化は、まだ始まったばかりであり、改善すべき問題点は多々存在する。しかし、医師不足の原因となっているかと言えば、スタート時の2年間はある程度影響があったと思われるが、既に5年が経過している現在ではほとんど関係ないと言わざるを得ない。 
質の高い医師を招聘し、質の高い医療を行い、研修医が集まってくることが、地域にとっても研修医にとっても指導医にとっても最善である。パンドラの箱が開いた現在、北風政策で問題解決を図ることはあまりにも浅はかであり、成功はしないであろう。誰もが納得し、皆に等しくメリットのある太陽政策を構築すべきである 


臨床研修制度検討会の提言を受けて 
亀田信介(亀田総合病院長) 

2009. 3. 6 日経メディカルオンライン 

 かめだ しんすけ氏○1982年岩手医大卒業。東大学医学部付属病院、社会福祉法人太陽会理事長を経て91年に医療法人鉄蕉会亀田総合病院長に就任。現在に至る。 
 地域の医師不足問題を受け、厚生労働、文部科学両省の臨床研修制度のあり方等に関する検討会が提言案を発表したが、本当に地域医療崩壊や医師不足問題の解決に繋がるのであろうか? 

 そもそも、臨床研修制度は質の高い医師を育成するために始められた制度であり、議論の根本がすり替わってしまっている。当院は人口37000人の過疎地に立地しているが、卒後研修の必修化がスタートする遙か前から、臨床研修病院としてスーパーローテーション方式による研修プログラムを行っており、多くの研修医が集まってきていた。 

 臨床研修の必修化は、まだ始まったばかりであり、改善すべき問題点は多々存在する。しかし、医師不足の原因となっているかと言えば、スタート時の2年間はある程度影響があったと思われるが、既に5年が経過している現在ではほとんど関係ないと言わざるを得ない。 

 医師不足の最も大きな原因は、高齢者人口の急激な増加と医療の高度化、医療安全や質に対する国民意識の変化等による医療ニーズの増大にある。つまり当然予見し得たこれらの問題に対し、医療費削減政策をとり続け、1985年以来医学部の定員を減らし続けてきた政策ミスこそが根本的な原因であることは明かである。 

 その付けを、臨床研修医に持って行くのは、あまりにも理不尽と言わざるを得ない。 
 今回の提言では、総定員枠の削減と、都道府県ごとの定員設定、更に都道府県内の研修指定病院の定員削減による大学への研修医のシフトを行おうと考えている。つまり研修医の強制配置を行おうとしているわけであるが、このような方法論で地域医療の崩壊や医師不足が少しでも改善されるのであればまだしも、更に悪化すると考えられる。 

 そもそも初期研修医を単純に労働力と考えることが間違いである。勿論、しっかりした環境があれば、ある程度医師としての働きは出来る。しかし、屋根瓦方式のような教育システムや指導医が整っていなければ、教育のために必要な労力は非常に大きくなるであろう。そもそも臨床に追いまくられ疲弊している指導医に、更なる負荷がかかり、しかも満足な教育も出来ない。 

 一方アンマッチによって強制的に配置された研修医は、モチベーションも上がらず、研修に対する不満も募り、多くが初期研修を終えた段階で去って行き、地域の労働力としては殆ど機能しない可能性が高い。そして、最も手の掛かる2年間の面倒を見た指導医も、教育に対するモチベーションは下がり、疲れ果て去って行くという悪循環を作り出す危険性が大きいのではないだろうか。 

 地域で欲しい医師は一人前の医師であり研修医ではない。将来にわたって地域の医療を支えられる医師を育てるためには、初期研修及び後期研修における教育が重要である。後期研修は専門医教育であり、その為には、症例や手技の数や種類が十分経験されなければならない。 

 つまり、後期研修に於いて専門家がこれらを考慮すれば、各科の患者数に見合った医師数しか育成することは出来ず、地域的にも人口、つまり症例数に対応したプログラム定員になるはずである。しかも、この様なプログラムこそが専門医研修には求められている。 

 日本の医師卒後研修システムは、非常に未熟であり、これから構築していくような段階である。当然のことであるが、良い医師を育てることと、地域医療を向上させることは矛盾するものではなく、同時に達成できるはずである。短絡的に狭い視野と低い視点で考えるのではなく、もう少し広い視野と高い視点で考えるべきであろう。以下、私の意見を述べる。 

  


1.初期研修について 

イ.厚生労働省の規定している必要要件は、あまりにも細かすぎる。各病院の創意工夫を促し、研修医や指導医からの評価によるカリキュラムの改善や、ベンチマーク手法による卒後研修の底上げを狙うべきであり、その為にプログラムの弾力性を認める。 

ロ.臨床研修病院の認定要件を明確化し、公正、厳格な評価により研修の質を保障する。 
ハ.初期研修に於ける各病院の募集定員は、行政側から厳格に規定するのではなく、研修医の評価を重視する。当然多すぎる定員は研修医からの評価を落とすことになる。 

 マッチ率が低いプログラムは自動的に定員を減らし、応募者がある期間無ければ認定を取り消す。公正、厳格な評価により新たに認定を受けた医療機関の参入は推奨され、結果として適正な自然淘汰と自助努力を喚起する。 

ニ.初期研修において、意図的に定員を削減することは、貴重な研修資源を十分活用出来なくなる可能性があり、更に適正な競争原理による自助努力のインセンティブが減り、日本全体としては医療の質の低下に繋がるおそれがある。 

ホ.初期研修医の強制配置は、前述の如く地域における医師不足解消には繋がらない。 




2.後期研修について 

イ.施設を認定するのではなく、プログラムを認定する。つまり、行政側から規定するのではなく、各地域の実情に合わせ、1施設でも多施設を活用しても自由であり、専門家同士が研修内容を厳密に評価する。 

ロ.期間中に経験できる症例や手技の最低数や内容を明確にし、更に研修後のアウトカムを評価する。症例数、つまり患者のニーズが増えれば定員も増やすことが出来るが、症例数と無関係に研修医が集中する事は無くなる。結果として、地域医療のニーズに応えられるばかりでなく、研修の質も向上する。 

ハ.手技や手術における適切な適応を守るため、行政ではなく専門家によるレビューシステムを構築する。 

ニ.大学病院の症例数では、後期研修医の育成は限られる。従って、地域の研修病院に指導医を派遣し、連携プログラムを創る必要が生じる。その結果、症例を提供する研修病院と、指導医を派遣する大学とは、お互いを補完しあうイコールパートナーシップの関係が構築される。 



最後に 
 医師不足の根底には、偏在ではなく政策ミスによる医療ニーズに対する絶対的な不足が存在する。これを解消するには少なくとも10年以上を要すが、この解決策については、今回は触れないこととする。 

 地域に質の高い病院や医師が存在することが、住民にとって好ましいとの意見に異論を唱える人はいないであろう。現在の問題は、地域に研修病院を作っても、研修出来る病院を創っていないことである。きちんと研修の出来る病院を創れば、研修医は自然に集まる。そのためには、何よりも素晴らしい指導医を集めることである。現実的には、様々な面で都市部よりも待遇を良くする必要がある。 

 しかしながら、入院基本料の地域加算に見られるように、現在の診療報酬制度は、公務員給に倣って東京を最も高くしていると言ったばかげたことを行っている。勿論、医師以外の給与水準や物価水準の問題は存在するであろうが、そうであればホスピタルフィーとドクターフィーの考え方を導入すべきである。 

 何れにしても、順番が反対である。質の高い医師を招聘し、質の高い医療を行い、研修医が集まってくることが、地域にとっても研修医にとっても指導医にとっても最善である。パンドラの箱が開いた現在、北風政策で問題解決を図ることはあまりにも浅はかであり、成功はしないであろう。誰もが納得し、皆に等しくメリットのある太陽政策を構築すべきである。