医療こそ21世紀の新たな雇用創出先-財務総合政策研究所研究班メンバー・松田学氏に聞く◆Vol.2 "縦割り"の組織を超えた視点からの改革が必要



医療こそ21世紀の新たな雇用創出先-財務総合政策研究所研究班メンバー・松田学氏に聞く◆Vol.2 

“縦割り”の組織を超えた視点からの改革が必要 


2009年2月2日 聞き手・橋本佳子(m3.com編集長) 

「21世紀の超高齢社会のバリューは健康であり、医療は新たな雇用を生む場として期待される」と語る松田学氏。  
 ――ところで、「システム」という言葉は、狭義でも広義でも、様々な形で使用されます。「医療システム」と言った場合、何をイメージされているのでしょうか。 

 「システム」というと、「制度」という捉え方もありますが、「法令に基づく制度」はシステムの一つの要素にすぎません。 

 私は第一に「社会システム」があると考えていますが、その定義は時代によって違ってきます。従来は供給者が中心でしたが、これからはエンドユーザーにどんなバリューを提供するかがシステムではないでしょうか。 

 日本全体の社会システムの中に、医療システム、教育システムなど、分野ごとにシステムがあります。今までは「産業縦割り」でしたが、そこに横串が入るのが今後のあり方です。医療システムには、医療そのものだけではなく、金融や保険をはじめ、様々な業界が関係しているわけです。関係するシステムに横串を刺したものが医療システムで、エンドユーザーである患者、家族に医療、さらには安心・健康などを提供します。 

 次に医療システムの下に、サブシステムがあります。私の考えですが、医療財源、病院経営、税制など、様々なサブシステムがあります。税制サブシステムと言った場合、医療以外の分野も関係してくるわけです。例えば、「寄付を促進するために、税制上の優遇措置を講じる」という議論が出てきた場合、税に対する優遇の基本的な考え方をクリアしないと、社会的合意は得られません。「医療には、こうした公益性がある」など皆の納得が得られる形で優遇措置のあり方を考える必要があります。 



 ――医科歯科大に出向する前から、医療問題に関心を持たれていたのでしょうか。 

 私は個人的に、「言論NPO」という組織で活動するなど、様々な分野の政策論にかかわってきましたが、医療だけはプロの世界なので正直言って苦手、自信のない分野でした。 


 ――「医療だけはプロ」というのは。 

 医療の重要問題を議論する際、一般の人がなかなか入れない面があります。実際にそうであるかは別として、「医師でないと分からないところがある」と見られがちです。例えば、政党がマニフェストを作っても、その背景にある議論は医療のことを多少でも知っている人ではないと入り込みにくい。経済などをやっている立場から見れば、特別な世界と映るでしょう。 

 しかし、実際に様々な方と議論していくうちに、結局は医療についても、一つの社会システムとして議論しなければいけない時代に来ていると思うようになりました。 


 ――医療はコストではなく、バリューであるとのことですが、そうした発想も医科歯科大の時代に持たれたのでしょうか。 

 それ以前から、「言論NPO」などでの議論を通じて、そうした考えを持っていました。小泉(純一郎)首相の時代の構造改革で追及したのは、「コスト効率性」です。しかし、それは最終的なソリューションにはなりません。市場競争原理に任せると、効率がいい企業だけが生き残り、効率が悪い企業は市場から出て行かざるを得ません。その時点では価格は下がり、消費者にとってプラスになるのかもしれません。 

 しかし、市場から出た企業や人材が他の産業で吸収されるでしょうか。非常に低賃金でないと難しいでしょう。ある程度、いい条件で吸収するためには、新しい分野を作るしかありません。 

 「構造改革」とは、効率性、生産性が低くなった分野から、より生産性の高い分野にヒトと労働、資本といった生産要素を移すことになります。つまり効率性を追及する一方、新しい需要、マーケットを創出して初めて構造改革が成立するのですが、日本ではこの創出をしてこなかった。 

 新たな需要、マーケットを作るためには、新たなバリュー、人々がお金を出したいと考えるバリューを創造していく以外にないのです。 

 このような視点で医療システムを見てみると、新たなバリューを作る場でないかと。バリューを作り、評価されれば自然とお金は入ってくる。こうした循環を作っていかないと、医療は従来の財源パラダイムではもたないのです。 


 
――バリューを作ってこなかった結果が今の状況であると。 

 そうです。だからこそ、今の派遣労働者の問題などが生じてきたのだと思います。2002年からの “いざなぎ越え”の景気回復は、海外に依存したものでした。国内の景気はどんどん下がっていった。結局、海外がダメになり、国内の状況があらわになったのが今の状態だと思います。国内でバリューを作る方向に向かわなかったという、非常に大きな問題があります。 

 これは研究会のメンバーの一人、亀田先生(医療法人鉄蕉会理事長)が発言されていたのですが、世の中のバリューが変わっていると。昔は生活必需品、衣食住を提供するのがバリューだった。生活水準が向上してくると、自動車などがバリューになり、自動車が基幹産業になってきた。米国の“ビック3”の危機は、この時代が終わった象徴かもしれません。 

 21世紀の超高齢社会のバリューは健康ではないでしょうか。 



 ――国内のマーケットが縮小する中で、新たな雇用創出先としても医療が重要になると。 

 そうです。私が財務省だからこそ、医療に対して、こうした大局的な議論ができると思っているのです。