「公」を「官」と「民」で支える仕組み作りを-財務総合政策研究所研究班メンバー・松田学氏に聞く◆Vol.3


「公」を「官」と「民」で支える仕組み作りを-財務総合政策研究所研究班メンバー・松田学氏に聞く◆Vol.3 


5月予定の報告書をたたき台に、議論の発展を期待 

2009年2月5日 聞き手・橋本佳子(m3.com編集長) 

松田学氏は「日本の不幸は戦後、公、イコール官と考えられてきたこと」とし、「公」である医療を、「官」と「民」で支える必要性を指摘。  
 ――では、この「持続可能な医療サービスと制度基盤に関する研究会」は今後、どんな形で議論を進めていく予定でしょうか。 

 月に1、2回程度会議を開き、この3月末に執筆メンバー(計9人のうち6人)が第一次草稿をまとめる予定になっています。それを基に議論して、4月にはコンファレンスを開催する計画です。5月には最終報告書をまとめる予定です。 

 ――会議では、どんな議論をされているのですか。 

 それぞれメンバーに持論を展開していただいています。次回は横山禎徳氏(株式会社イグレック代表取締役)に、お話いただきます。この研究会はあくまでメンバーの自由な意見交換・集約の場ですが、横山氏は社会システムの専門家なので、どこまで話を広げ、どこに焦点を当て、どこまで踏み込んで報告書をまとめるかなど、次回の会議でそろってくることが期待されます。その後は国際比較やファクト・ファインディングをやりながら、議論を進めていく形になると思います。 

 ――報告書では、必要な財源など詳細まで明記するのか、あるいは医療システムのあるべき姿を描くのがメーンになるのでしょうか。 

 必要な医療費や財源など技術論的な問題よりも、将来に向けて日本の医療提供体制をどう設計していくか、基本的な方向性の提示を目指しています。また、こうした議論をしないと意味がないと思っています。 

 タブーはなく、自由に議論していくのが基本です。 

 ――非常に幅広くかつ奥深い議論であり、とても5月の報告書で終了するとは思えないのですが、その後、どんな形で議論を深めていく予定ですか。 

 この研究会の報告書は、財務省の公式見解となるわけではありませんが、その後に財務省が政策を考える際のリファランス(参考資料)になります。2010年度予算編成、財務省がかかわる財政政策の議論の際に活用されることが期待されます。 

 ただ、私はそれを超えて様々な場で、報告書をたたき台にした議論が進み、関係者のコンセンサス形成につながっていけばと考えています。 

 個人的な見解ですが、医療システムは、「民」のお金を入れないともたず、その選択肢の一つとして「産業化」があります。予防医療、技術革新のマーケット化、さらには海外から医療ツアーなどの形で受け入れるなど、日本の医療には様々な可能性がありますが、全然進んでいません。「産業化」で得られたお金の一定部分は、中低所得者の医療費など社会的相互扶助に充てるシステムを作る発想が必要です。 

 さらに、寄付という要素も重要です。地域で病院を支えよう、そのために寄付を募るということです。「出資」と言い換えてもいい。株式の場合は配当が必要ですが、病院は非営利なので、「配当なき出資」を求めるといった発想があってもいいのではないでしょうか。 

 出資をした人には、その病院運営に対して一定の発言権を付与し、「自分たちも病院運営に参加している」という意識を持ってもらう。さらに、予防医療など付帯的なサービスを受けられるようにする。単にお金を出してもらうだけではなく、様々な形で病院にかかわっていただく。 

 その場合に最終的に問われるのは、税制上の問題です。寄付に優遇措置を設けるかどうか、ということです。 

 ――寄付を募る医療機関側には公益性も求められます。 

 その通りです。では、医療における公益性とは何か。それは素人には分かりません。まさにプロフェッショナルである医師、医療者に検討していただきたい部分です。 

 ――国民皆保険の維持という観点から、公益性をどうお考えですか。 

 国民皆保険はナショナルミニマムであり、すべての人に提供すべき部分は保険でカバーします。その上に、「選択的価値」を提供する、つまり「これはバリューがある」と考える部分に対して個々人にお金を出してもらう仕組みを作る。 

 ナショナルミニマムは「官」の世界であり、その範囲は民主主義の下、多数決で決まります。しかし、多数決で決まらなくても、価値観が多様化する時代にあって、「これは公益性のある価値」と一定数の人が支持するものがあれば、寄付やマーケットを通じた負担を求め、それを提供するための仕組みを作る。 

 つまり、上位概念にあるのが、「公」、パブリックです。その「公」を支えるものとして、「官」もあれば、「民」もあるという考え方です。 

 日本の不幸は戦後、「公」イコール「官」と考えられてきたことです。「官」も「公」を支える一つの主体にすぎません。国民皆保険は「官」がやる、そのプラスアルファの部分は「民」がやり、その全体が「公」であるという組み立てです。 

 ――そうした考え方、関係者のコンセンサス作りは重要ですが、容易ではないと思います。どんな形で進めていけばいいとお考えでしょうか。 

 難しいとは思いますが、議論を深める一歩手前まで来ていると思います。明らかに今の制度のままでは持続不可能であることは皆が分かってきたことです。小泉改革が社会保障費を削減し続けて、医療崩壊を招いたという現実を突きつけられているわけです。だからと言って、今のような経済状態で増税できるでしょうか。それも皆が無理だろうと思っている。 

 したがって、おのずと議論は収れんしてくると思うのです。「民」にある資産を国内の「公」の部分に引き出していく以外に解はないでしょう。こうした議論が今、あまりにも足りません。この研究会の報告書が議論を深めるきっかけになればと期待しています。