財務省が医療を真正面から議論するのは画期的 -財務総合政策研究所研究班メンバー・松田学氏に聞く



財務省が医療を真正面から議論するのは画期的 -財務総合政策研究所研究班メンバー・松田学氏に聞く◆Vol.1 ・・医療維新』 

今回の議論は時代の要請、「社会保障費2200億円抑制」は限界 

2009年1月29日 聞き手・橋本佳子(m3.com編集長) 


 昨年12月、財務省の財務総合政策研究所が「持続可能な医療サービスと制度基盤に関する研究会」(座長:同研究所名誉所長の貝塚啓明氏)を立ち上げた。同省が医療に特化した専門的研究班を立ち上げるのは異例のこと。 
 研究班の実務の要となる、同研究所客員研究員の松田学氏(現在、財務省から、郵便貯金・簡易生命保険管理機構に出向中)に、現状の医療に対する現状認識や研究班の狙い、今後のスケジュールなどについて聞いた(2009年1月13 日にインタビュー)。 


東京大学経済学部卒業。1981年大蔵省入省、財務省本省の課長などを経て、東京医科歯科大学教授に出向後、2008年から財務省より郵貯簡保管理機構の理事として出向。上武大学客員教授。  
 ――研究会を立ち上げた経緯からお教えください(研究会の紹介は、こちら)。 

 財務総合政策研究所は本省組織の一つで、従来から財政・金融を中心に、毎年テーマを決めて様々な研究を重ねてきました。前回は人口減少時代を迎えて、将来の社会保障制度をどう構築するかを議論しました。 

 今回は医療を取り上げたわけですが、財務省が真正面から医療問題について有識者を集めて議論するのは、私が知る限り初めてのことでしょう。 

 ――なぜ今回、医療問題を取り上げたのでしょうか。 

 社会保障費の伸びを毎年2200億円抑制するのは限界だというのは皆が分かっていることだと思います。かといって、財政再建の旗を下ろすわけにはいかないジレンマがあります。 

 2009年度予算に限っては、国庫負担の引き上げのために年金が最多ですが、政府の歳出項目の中で最近一番多いのが医療です。しかも、今後、超高齢社会を迎え、さらに増大していく。 

 しかし、医療費が増大しているからと言って、必ずしも誰もが満足する形で医療が提供できているわけではありません。医療崩壊、医師不足があり、医療機関の経営もかなり悲惨な状況です。 

 医療システムを抜本的に改革しないと、医療が高齢社会に見合ったものとして持続できないというのが、多くの人の共通認識ではないでしょうか。もちろん、厚生労働省は毎年、様々な改革を実施していますが、こうした改革で済むのかと。直接所管する厚労省は従来の枠組みからなかなか脱することはできず、一方でこれまで政府内で十分に議論してきたわけではありません。 

 私は2008年6月までの2年間、東京医科歯科大に出向し、教養部の教授として経済などを教える傍ら、大学の副理事としてマネジメントにかかわっており、多くの医療関係者と議論する機会に恵まれました。医療には合理化が必要な部分もありますが、医療崩壊は社会保障費を削減してきた帰結であり、医師不足をはじめ、医療の問題は財源不足問題としてかなり説明できると考えるようになりました。財政を預かる財務省あるいはそれに近い部署が、この問題を真正面から取り上げることは時代の要請だという考えが、研究会を立ち上げた背景にあります。 

 役所の事務年度は予算に合わせて7月から翌年6月までです。今年度に入って、貝塚啓明先生を中心に医療問題を取り上げようということになり、私がそれまで医科歯科大にいたことなどもあり、医療システムを幅広く議論する研究会がスタートしました。 

 医療費の増額というと、増税、自己負担増、保険料のアップを考えますが、これら3つの選択肢を考えるだけでいいのかという疑問があります。日本の財政状況は大変な状況にあり、必要な財源をすべて税に求めるのは無理でしょう。とても日本経済は耐えられない。 

 医療については、ほかの懐を作ることが必要であり、その懐は考えようによっては、いくらでも組み立てることができるのではないでしょうか。 

 ――国民皆保険の維持については、どうお考えですか。 

 私は国民皆保険を維持すべきだと考えていますし、多くの人がその立場だと思います。その前提で、あくまで個人的な見解ですが、一部、民間保険を活用した“二階建て”にしたり、地域住民から寄付や出資金を募って病院を運営したり、医療を産業化して、そこに民間資本を活用するといった発想が必要でしょう。 

 ――混合診療を導入するか否かという、二者択一の問題ではないということですか。 

 はい。“民”に蓄積された資産をうまく医療に引き出す。提供してくれた人には、バリュー(価値)を提示し、かつ社会的相互扶助につながる仕組みにする。医療はコストではなく、バリューを提供するものだという発想の転換です。 

 ――研究会のメンバーは、座長の貝塚氏も含めて9人ですが、どんな視点で選ばれたのでしょうか。 

 医療システムの改革は今、個別に実施していたのでは間に合いません。特に財源の面ではかなり抜本的な制度改革、大きな組み換えが必要な時期に来ていると考えています。 

 医療システムは、他の様々なシステムとつながっています。社会システム全体をどう変えていくか、その中で医療システムをどう構築するかという幅広い視点がないと改革は機能しません。今、様々な分野で改革が行われていますが、改革がうまくいかないのは制度ごとにやっているからだと思います。 

 例えば、公務員制度改革ですが、民間と人事交流して、能力主義の導入などが掲げられていますが、そのためには民間の労働マーケットがより流動化しないと、現実には成り立ちません。公務員制度改革という一つの柱だけでやっても無理で、社会全体の労働市場、各企業の人事制度などと平仄(ひょうそく)を合わせて実施する必要があります。 

 医療制度も、超高齢社会をいかに運営するという基本思想から考える必要があります。会社をリタイアした後にどんな人生を歩むのか、高齢者が活躍する社会をいかに作るか、その中でいかに医療制度を位置づけるかという視点が求められます。 

 単に病気の治療だけではなく、元気で健康というバリューを高齢者にいかにデリバリーするか、という視点から考えれば、医療の裾野はもっと広がり、大きな産業として発展する可能性があります。 

 こうした可能性を考えつつ、一方で財源面でも、健康というバリューを提供するマーケットを作り、寄付によって満足を得られる地域社会を作る。あらゆるものが様々に関連し、医療の財源を得るという発想が必要です。財務省であるからこそ、既存の制約から離れた議論ができるわけです。財務省は財政を預かるわけですが、こうした議論は最終的には財政健全化にもつながる話です。 

 したがって、研究会のメンバーは大きな視点で物事を見ることができ、幅広い議論できる人にお願いしました。 

 ただし、どんな改革をやるにせよ、現場を知らない人に戦略を立てることはできません。例えば、亀田隆明先生(医療法人鉄薫会亀田総合病院理事長)は、私が医科歯科大にいたとき、同大の理事をされており、頻繁に議論していました。経営者として、また医師として、社会全体を広く見るマインドをお持ちです。