一睡もできなかった当直明けの通常勤務はつらい。若い医師に同じことを強いるのでは産科・小児科離れを食い止められない。せめてもう1人、常勤医がいれば・・・・

     
  
『一睡もできなかった当直明けの通常勤務はつらい。若い医師に同じことを強いるのでは産科・小児科離れを食い止められない。せめてもう1人、常勤医がいれば・・・・』 
  

周産期医療:現場ルポ 一睡もできないことも--県立小児医療センター /群馬 
2008.12.24毎日新聞   
  脳出血を起こした妊婦が病院に受け入れを断られた末に死亡するなど、周産期医療をめぐる問題が深刻化している。現場はどうなっているのか。「総合周産期母子医療センター」に指定されている県立小児医療センター(渋川市)を訪ねた。【鈴木敦子】 

 
◇「地元で助けたい」 常勤医不足、NICU満床 

 「ビー、ビー、ビー」。11月下旬深夜。2週間前に「飛び込み出産」で生まれ、新生児集中治療室(NICU)に入っている男児の血液二酸化炭素濃度を示す機器が異常を知らせた。出生時の体重は約900グラム。母親が産婦人科を受診しておらず正確な妊娠週数は不明だが、26週前後とみられる。肺機能が未熟だった。 

 「痰(たん)を吸引して」。当直の丸山憲一・新生児科部長の指示に、看護師がのどにチューブをさして取り除き、別の看護師が手動で呼吸器を操作した。小さな体の胸の上下に合わせ、作業は慎重に進む。約45分後、大人の親指ほどの太さの腕から採血し、正常値に戻ったことを確認した。 

 同センターのNICUは12床、常に満床の状態が続く。この日は生後2日~2年1カ月の乳児がいた。長期入院が新たな救急の受け入れ拒否につながることもある。 

 「×」が並ぶパソコン画面。県は06年度から、NICU完備の6病院など計14施設の受け入れ状態を、パソコンで常時閲覧できるシステムを導入した。▽1000グラム未満▽1500グラム未満▽1500グラム以上――の項目ごとに各施設が毎日更新して情報を共有する。1000グラム未満に「○」がつくことはほとんどない。 

 県内の受け入れ先は同センターが探す。高木剛・産科部長は「『×』でも電話する。群馬の病院は『地元で助けたい』との思いが強く、融通が利く」という。NICUが満床でも、比較的具合が良い新生児を回復室(GCU)に移せるかは小児科医の判断だ。高木部長は「日ごろから連絡を取り合っているので頼める。都会ほど『たらい回し』が起きやすいのでは」と話す。依頼の半数が埼玉や千葉、東京の患者で占められる日もある。 

 ただ、群馬でも産婦人科の医師は減少傾向が続く。96年の182人が06年には168人と、10年間で約8%減った。同センターの産科医は常勤は3人だけ。非常勤2人が加わり、平均月6回の当直体制を何とか維持している。厚生労働省が10月に発表した調査結果によると、産科医が5人しかいないのは、全国に75カ所ある総合周産期母子医療センターで最少だ。隣県では栃木は35人、茨城は17人。また、同センターのNICU専従の医師は常勤5人で当直は平均月6回。栃木、茨城はいずれも12人いる。 

 「一睡もできなかった当直明けの通常勤務はつらい。若い医師に同じことを強いるのでは産科・小児科離れを食い止められない。せめてもう1人、常勤医がいれば」。高木部長の悩みは深い。 

 

◇民間産院も人手不足 「働きやすい環境を」 

 人手確保に悩むのは民間も同じだ。 

 「フランス料理が食べられる」「無料でエステを受けられる」などの評判で知られる高崎市の「舘出張(たてでばり)佐藤病院」。07年度の分娩(ぶんべん)数は1731件で、県全体(約1万8200件)の1割近くを占める。日本産婦人科医会県支部長でもある佐藤仁院長(71)によると県内最多という。 

 同病院には院内託児所があり、女性医師(33)が乳児を預ける。この医師はもともと群馬大学医学部付属病院の勤務医だった。育児で当直勤務ができなくなり、公立病院での勤務から外れたという。 

 「保育士費用はかかるが、医師不足を補うには働きやすい環境にしないと。これも経営判断」。佐藤院長は働きやすい職場環境の重要性を強調した。