『病院の言葉を分かりやすくする提案』



『病院の言葉を分かりやすくする提案』 

国立国語研究所 
  
患者に言葉が伝わらなかった医師の経験を尋ねた調査で書き込まれたコメントを分析したところ,次のような三つの原因が見えてきました。医師が挙げた言葉とコメントを,一例ずつそのまま引用します。 

① 患者に言葉が知られていない 

 事例1:病理 
「手術での摘出臓器を病理検査して詳しく調べる」ことの説明の際に病理の意味が分からなかったようだ。病理という言葉は一般に知られていない。顕微鏡で細胞の種類や性質を調べる検査について分かりやすく説明する。 

② 患者の理解が不確か 

 事例2:炎症 
「炎症が起こっている」という言葉は確かに便利な言葉で,多くの患者はどこまで理解しているかは別として,何となく分かった気にさせる言葉である。しかし,炎症を素人に短時間で医学的に正しく理解させることは大変困難でもある。「細菌が体内に侵入し,悪さをするので,これを防止するために白血球が細菌と戦っており,このために腫(は)れて,痛くて,熱が出るのです。この戦いで死んだ白血球と細菌が膿(うみ)となって出てくるのです。」と説明すると理解が得られることが多い。 

③ 患者に理解を妨げる心理的負担がある 

 事例3:腫瘍(しゅよう) 
卵巣に腫瘍があり,画像検査等より良性が考えられたが,腫瘍=がん,との思い込みがあり,患者は非常に落ち込んでしまった。詳しい説明に入る前に,腫瘍には良性と悪性があることを理解させ,十分な時間を使って説明するようにしている。 

 これらの原因のうち①や②は,患者が言葉をどれだけ知っていて理解しているかが問題になるものです。①②の原因で伝わらない言葉がどのようなものであるかは,非医療者に対する理解度等の調査によって知ることができます。 



2008年10月22日朝日新聞 
     
 国立国語研究所(東京都立川市)の「病院の言葉」委員会は21日、患者にとって難しい医療用語を分かりやすく説明するための手引の中間報告を発表した。意見を募り、来年3月に最終報告を出す。 

 計140語を取り上げた。(A)患者に知られていないので、日常用語に言い換える(B)患者は言葉は知っているが理解が不確か(C)患者にも大切なので普及させる、という三つに分けた。 

 典型的な57語については、簡単な説明から、時間がある時の詳しい説明まで3種類の説明を提案した。よくある患者の誤解や、患者が知りたい点、効果的な言葉遣いをするための注意点なども記した。 

 例えば、B分類の「メタボリックシンドローム」については、医療従事者以外には、単に太っていること、腹回りの測定値で決まることといった誤解が多く、「メタボ」などと笑い事にしている人も多い、と指摘。危険な病気につながる可能性のある状態だと理解してもらう必要がある、としている。 

 委員会は委員長の杉戸清樹同研究所長、医師や看護師ら医療従事者、患者団体代表、コミュニケーション学の専門家ら24人がメンバー。昨年10月から医師や看護師ら約1650人、医療に従事していない約4280人を対象に調査を重ね、問題点と解決策を探った。