自治体が運営する公立病院が岐路に立たされている。どの病院にも共通する課題は、深刻化する医師不足と構造的な赤字体質の改善。



『日曜討論 公立病院改革ガイドラインを考えるセミナー 
2008.09.14 佐賀新聞』   
  
☆自治体が運営する公立病院が岐路に立たされている。どの病院にも共通する課題は、深刻化する医師不足と構造的な赤字体質の改善。国は各自治体に対し、本年度中の改革プラン策定を求めている。佐賀、長崎、福岡の3県医師会が主催した「公立病院改革ガイドラインを考えるセミナー」の要旨を紹介する。☆ 


 ▽基調講演 

榮畑 潤さん(厚生労働省大臣官房審議官・前総務省大臣官房審議官) 

長  隆さん(公立病院改革懇談会座長) 


 ▽パネルディスカッション 

宮崎 耕治さん(佐賀大学医学部付属病院長) 

向原 茂明さん(長崎県福祉保健部参事監) 

横尾 俊彦さん(多久市長) 

福岡 資麿さん(衆議院議員) 


 ▽座長 

十時 忠秀さん(佐賀県医療統括監) 

寺崎 宗俊  (佐賀新聞社取締役編集主幹) 

=基調講演= 榮畑潤さん 


〈「公立病院改革について」〉 


 二〇〇六年度は全国の自治体病院の約八割が赤字だった。収入減に加え、人件費や材料、減価償却などの費用が民間より割高になるコスト構造にも原因がある。さらに医師不足が追い打ちをかけ、休診や廃院の公立病院も出始めている。 

 昨年十二月に示した公立病院改革ガイドラインは、公立病院の役割について(1)山間部やへき地・離島などの過疎地医療(2)産婦人科や小児科などの不採算医療(3)がんセンターなど民間では難しい高度・先進医療(4)効率的な医師派遣の拠点としての機能-と定義した。地域に必要な医療体制を、多様な政策により維持してもらいたい。不採算医療は一般会計からの繰り出しを前提に、赤字脱却を図ることが現実的だ。 

 重要課題は医師確保対策だが、公立病院の再編・ネットワーク化も検討してほしい。キャリア形成が可能な規模と機能、指導体制を備える基幹病院を地方につくることで若手医師を集める。それによって周辺の医療機関に医師を派遣できるシステムが期待できる。 

 経営感覚に富む人材を幹部に登用し、病院の経営形態を見直すことも重要だ。地方独立行政法人や指定管理者制度導入などで自治体直営でなくなれば、議会承認が必要な予算や職員定数、処遇などの束縛から開放され、弾力的経営が可能になる。権限と責任の所在もクリアになる。積極的に取り組んでもらい、三年から五年の間に改革が進むことを期待している 

=基調講演= 長隆さん 


〈「絵に描いた餅にならない改革プラン策定のために」〉 


 公立病院の再編・ネットワークの旗印は「選択と集中」。考え方の違いを乗り越え、統合に着手すべきだ。ガイドラインを絵に描いた餅(もち)にしないためにも、密室ではなく、公開での議論が前提。具体的な病院名を挙げて公立病院の方向性を明確に示すことが県民の利益になる。 

 多額な税金を投入しても公立病院の役割を果たしていない病院は地域医療から退場すべきだ。佐賀県内でも近接する同じ規模の公立病院は統合が必要だし、存続が必要なのか検討すべき病院もある。地元利害関係者を入れずに公開で論議し、結論を出してほしい。 

 今後は、大学病院が自治体病院の指定管理者になったり、付属病院化することが、地域医療を守る画期的な手法の一つだと思う。金沢医科大(石川県・私立大)を指定管理者にした氷見市民病院(富山県)の例を学んでほしい。高知大も全国で初めて、過疎地の診療所の指定管理者になった。 

 武雄市民病院のようにいきなり民間移譲する場合は、公開の場で進めることが重要になる。公開で進めたことで地域医療機関との連携も問題なくうまく進んだ例もある。早急にことを進めると、公平さや透明さに疑問が生じる。経営形態の変更は一点の曇りがない形で進めるべきだ。 
 
 寺崎 それぞれの立場から意見を。 

 宮崎 日本の勤務医の労働時間は欧米と比較して圧倒的に多く、過重労働に陥っている。医療の高度化や高齢化に伴う合併疾患の増加、手術数の増加、夜間診療の増加、事務作業の繁雑さなどが医師を疲弊させ、「モンスターペイシェント」や「コンビニ受診」「院内暴力」が追い詰めてしまう。社会の変化も、医療環境を大きく変えた。 

 公立病院は診療科をそろえた「ミニ総合病院」となりがちだが、医師が不足しており、各医療機関の役割を明確化した上で医師を配置するしかない。医師育成の研修を向上させ、公立病院でもキャリア形成にマイナスにならないようにしないと、若い医師は派遣できなくなる。住民も公立病院の医療資源を大事に扱ってほしい。「ありがとう」の一言が若い医師の使命感を育てる。 


 向原 長崎県は〇一年に県立病院改革に着手した。一病院を民営化し、残りの二病院は専門医療の特化と経営健全化を進め、病床数を42%、職員数を27%縮減した。 

 離島という特殊事情を抱えており、市町村合併と同時に離島の公立病院の統合も論議してきた。〇六年から県立病院とのあり方とも絡め、離島医療の運営形態を検討。県と離島の五市一町が共同体となって、県立二病院と離島の九病院を運営していくことになった。基幹病院と地域病院に機能を分けて運営するが、離島の地域病院は「分院」あるいは付属の「有床診療所」「無床診療所」など適切な形態で移っていく予定だ。 


 横尾 十一年前、市長になって経営感覚での行政運営が大事なことを感じた。病院運営も同じ。給食部門など一部業務の民間委託を、職員の理解を得ながら進めたが、コストや経営効率化の意識醸成に役立った。看護師や事務職員らが自ら勉強会を開くようになったことは心強かった。 

 多久市立病院は、県央の医療機関としても重要だと認識している。医療の充実を図りながら、経営改善も進めていく姿勢が重要だと思う。県内の医療は、佐賀大医学部付属病院や県立病院好生館とのネットワークが非常に重要になる。しっかりとした連携があれば住民の不安を解消できるし、研修医を集めるための情報発信も重要だ。 


 福岡 医療でも省庁の縦割りの壁がある。厚労省は「公であろうが、民間であろうが、必要な医療が提供できればいい」というスタンス。総務省は公立病院の経営を重視し、改革をとりまとめようとしている。 

 公立病院の経営建て直しはテレビドラマのテーマに取り上げられるくらい市民にも身近な問題になっている。地域で医療機関同士が機能を分担しながら、効率的な医療を提供できる体制をつくらなければならない。国は社会保障予算を二千二百億円のマイナスシーリングで削減する方針だが、医療など絶対に必要な部分は積み上げ方式で考えるべきだと思う。 


 寺崎 会場から質問や意見をいただきたい。 


 会場 再編・ネットワーク化の即効性と実効性に疑問がある。医師不足で再編もやむなしという乱暴な論調が気になる。 


 長 即効性のある手法をガイドラインで実行に移すことができる。今回のガイドラインはすべて先進モデルがあり、自信を持っている。具体例を学んでもらいたい。 


 榮畑 医師確保対策に切り札はない。即効性のある手だてを望むのも理解できるが、医学部定員を増やしたり、勤務医の職務環境改善や女性医の働きやすい職場づくりを進めるなど、いろんな方策を積み上げていかなくてはならない。 


 会場 千葉県の銚子市立総合病院が九月末で休診する報道は衝撃だった。医師偏在を元に戻す方策はあるのか。 


 長 銚子は、自治体が挑戦を恐れ、体質改善を怠ったことに尽きる。監視できなかった議会にも責任がある。ガイドラインは医師を戻すための技術的助言でもある。 


 榮畑 元に戻すのはなかなか難しいが、臨床研修制度は変えていくべきだ。研修医数の各県定員枠をつくり、都会に集中しないようにすることなども検討していく。 


 会場 大学病院も研修医を集める行動を起こさなければいけない。 


 宮崎 国立大学付属病院長会議でも臨床研修制度の見直しを要求した。大学独自には、研修プログラムの充実に力を注いでいる。 


 寺崎 最後に十時医療統括監にまとめを。 


 十時 おおむね総論は賛成だが、各論になると簡単にいかない。だが、佐賀県は大きくないからこそ、実現可能なこともある。日本の先進モデルにもなりうる。 



=記者の目= 


〈住民の視点で〉 


 今回紹介した「公立病院改革ガイドラインを考えるセミナー」は、医師と自治体関係者、首長、議員、それにマスコミ関係者を対象に開かれ、一般市民は招かれていない。会場の収容力の都合もあったのだろうが、一般の市民にこそ聞いてほしい内容だった。 

 病院経営や行財政に関する専門的な話も、結局はすべて市民に帰結する問題だ。本年度中に各公立病院はガイドラインに沿って改革プランを策定し、県主導で公立病院の再編・ネットワーク化に関する検討も進められる。その論議に市民、患者の視点が抜け落ちてはいけない。 

 市民側も医療関係者が抱える悩みや危機感を共有する必要がある。「自分たちの病院をこのまま残してくれ」と主張するだけでなく、自分に何ができるかを考えてほしい。少しはコンビニ受診やモンスター患者が減り、地域医療の展望も見えてくるはずだ。(岳 英樹)