『高いレベルの医療のためには、一定規模の病院とまとまった症例数が不可欠だ。人口の少ない地域は、ある程度の広域にひとつの基幹病院を造って、そこに設備も人も集中させる選択と集中が必要である』

『高いレベルの医療のためには、一定規模の病院とまとまった症例数が不可欠だ。人口の少ない地域は、ある程度の広域にひとつの基幹病院を造って、そこに設備も人も集中させる選択と集中が必要である』 



【オピニオンプラザ・私の正論】第405回(3-1) 
2008.08.05 産経新聞  
  

 □第405回テーマ「医療のこれからを考える」 

 〈入選 畠史子(はた・ふみこ)〉(49歳 鳥取県・医師) 

 ◆すべての科目ケアする「家庭医」育成を 

 少子高齢化がますます進んでいく中で、日本の医療制度も構造改革が必要である。大学医局支配を変えるための改革であるはずの新しい臨床研修医制度に、早くも見直しの声が上がっているのは迷走としか思えない。研修医が都会の病院に集中して人手不足となり、地方の医療が立ち行かないと問題にされる。しかし、これまでは満足いくシステムだったのか。医局からの派遣医師は短期間で交代し、ただその場を埋めているだけだった。僻地(へきち)医療が義務づけられている自治医大卒業の医師は若い医師であり、臨床研修医制度を元に戻しても、本当の意味で地域のための医療が実現するとは思えない。 

 産科医、小児科医の不足、勤務医の疲弊などの問題は、全体の医師数の不足が原因といわれる。しかし、2004年の統計では、人口1000人当たりの医師数はOECD(経済協力開発機構)平均が3人であるのに対し、日本は2人と少ないが、1985年からずっと増加してきている。産科、小児科、勤務医の問題の原因は、全体の医師数よりむしろ、医師が偏在していて有効に役割分担ができていないことにあるのではないか。 

 日本の人口100万人当たりのCT(コンピューター断層撮影装置)とMRI(磁気共鳴画像装置)の保有台数はそれぞれ92・6台、40・1台で、OECD平均の20・6台、9・8台と比べて突出している。これまでの日本は、各地域に似たような総合病院があり、どこもCT、MRIなどをそろえる方向をとってきたが、大きな無駄を生んできたといわざるを得ない。赤字が続く地域の病院をただ存続させるのでなく、病院の役割を含めた構造を抜本的に変える医療再編が必要であると思う。 

                 ◆ ◇ ◆ 

 私は15年前にアメリカで次男を出産した。私が診てもらったのは、ファミリープラクティス(=家庭医)という部門だった。妊娠から出産を診てくれた同じドクターが、生まれた次男の乳幼児健診、ワクチン接種も受け持つ。次男の腕を引っ張った拍子に肘(ひじ)が外れてしまったときも、整形外科でなくその同じドクターが治してくれた。アメリカの家庭医とは、内科はもちろん、産科、小児科、眼科、耳鼻科、整形外科なども含めたすべての科目のプライマリーケアができる、かかりつけ医なのである。その存在がとても新鮮で素晴らしいものに思えたが、その思いは今も変わらない。アメリカの家庭医のような医師を育成することは、日本の医療の抜本的解決策の一つである。 

 高いレベルの医療のためには、一定規模の病院とまとまった症例数が不可欠だ。人口の少ない地域は、ある程度の広域にひとつの基幹病院を造って、そこに設備も人も集中させる選択と集中が必要である。その基幹病院を家庭医育成の中心に据え、そこで研修した家庭医が地域のサテライト病院あるいは診療所に配置されれば、役割分担ができて有効に機能するだろう。難しい症例の患者さんを他のドクターに相談し紹介することができれば、僻地の診療所に勤務しても安心して診療ができる。地域に住民が信頼できる医療機関があって、その医療機関と上位機関がうまく役割分担できれば、地域全体が大きなチーム医療を行うことになる。結果として全体のレベルが向上し、現在問題となっている地方と都会の医療レベルの格差是正に繋(つな)がる。 

 また、家庭医育成の対象は若手だけでなくむしろ中堅以上の医師を対象とすべきである。出産などで第一線から引いた女性医師が家庭医になる研修を受けることができれば、三十代では医師数の30%を超える女性医師が、うまく現場に復帰できるようになる。外科系の医師で、何歳になっても第一線で活躍できるのはほんの一握り。途中で家庭医となる選択があれば、人材を有効に生かすことができる。家庭医が正常分娩(ぶんべん)を扱い、小児科のプライマリーケアを行うことができれば、産科や小児科にとって大きなマンパワーになる。疲弊した勤務医をめぐる現在の悪循環を断ち切ることができる。 

 市町村レベルよりもっと広域での病院の再編と、家庭医育成のためのきちんとしたシステムを作ることこそ、日本のこれからの医療の抜本的解決策である。その実現には、道州制の規模で地域医療を考えることが必要であると考える。 

 入選してひと言「米国で2年暮らしたことが医療を含めた日本の姿を考える原点となりました。医療の現場でさまざまな問題を感じていますが、現状を救う私の処方箋(せん)が認められてうれしい」