公立病院改革セミナー講演要旨(高知市)』(上) 「病院事業にPFIは適するのか」 長瀬啓介氏(京大医学部准教授)  賃金・人事の見直しを "稼ぎ"生まぬ自治体病院





『公立病院改革セミナー講演要旨(高知市)』(上) 「病院事業にPFIは適するのか」 長瀬啓介氏(京大医学部准教授)  賃金・人事の見直しを “稼ぎ”生まぬ自治体病院 
2008.07.11高知新聞 』  
  

 全国自治体病院協議会県支部と県医師会の主催による「公立病院改革セミナー」がこのほど高知市で開かれた。京都大学医学部准教授の長瀬啓介氏と、総務省の「公立病院改革懇談会」座長の長(おさ)隆氏(公認会計士)の講演要旨を二回に分けてそれぞれ紹介する。(小川一路) 

 三百-三百九十九床規模の自治体病院(都道府県や市町村などが開設)と公的病院(日本赤十字社やJA厚生連、社会保険関係など)の平均的な経営状況を比較してみる。 

 百床当たりの費用は同程度なのに対し、収益では自治体病院は公的病院の九割足らず。一床当たりの有形固定資産額は、自治体病院は公的病院の二倍近く。これは施設や設備規模を計画する際に、他の自治体病院などとの横並び意識だけで実際の償還計画(収益計画)を考えていないため。 

 自治体病院は公的病院に比べて過大な施設・設備投資をしているにもかかわらず、そこから生み出すべき“稼ぎ”では公的病院に及ばないのが現状だ。 

  ▼英国で大論争 

 高知医療センターで導入された病院PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ=民間の資金・ノウハウを活用した公共施設の整備・運営手法)について考えたい。先行するイギリスでは一九九九年に大論争が巻き起こり、十年近くたった今でも最良の方法が見つかっていない。それだけPFI契約が難しいということだ。 

 日本における病院PFIを考えたとき、自治体病院の建設コストはもともと高く、要求する建物自体が豪華であればPFIを導入しようが、費用がかさむことに変わりはない。 

 現在、PFIで民間委託できるのは医療サービス以外の検査・検体や医事請求業務、清掃といった分野のみで、それらのコスト削減についても、まだ始まったばかりだが、高知医療センターや同じく病院PFIを導入した滋賀県の近江八幡市立総合医療センターを見る限り、削減できているとは言えないし、イギリスでは既に「削減効果が期待できない」と評価されている。 

 また、病院の医療機能が高度化し、診療単価が上昇すると、それに伴って材料費も増えるのは当然。だから、何をもって改善の指標とするかは大きな問題だ。医業収入から材料費を差し引いた上で評価するのが最も簡単だが、その部分についてどれだけ改善できるのか、何も指標がなければPFIが一体何をもたらすのか分からないと言わざるを得ない。 

  ▼リスクの共有 

 病院側とPFI事業者側との間で事業リスクが共有されているのだろうか。PFIで民間委託できるのは医療サービス以外の分野のみだから、病院全体が稼ぐかどうかとは全く関係ない。 

 しかも医療を取り巻く情勢は短期間で変化するので、これに対応するような短期的な契約変更にはなじまない。それをPFI事業者側も意識しているので、情勢がどう変化しようが、自分たちの利益が確保できるように契約を結ぼうとする。その時点で事業リスクは共有されない。 

 民間事業者は基本的に、自社の利益を最大化することを目的としている。事業リスクを共有していないので、PFIが病院の利益を最大化するとは論理的に言えないし、民間の知識や経験を生かした病院事業計画が立つとは考えられない。 

 PFIは事業運営について公と民で綿密な検討を要するが、果たして公の側に契約内容を制御できる能力があるのか。それがあれば、そもそも全国の自治体病院で膨大な赤字が発生しているわけがない。 

 表面的な検討に基づく対策は、医療を提供する機能と財務内容を悪化させる。真剣に病院のことを考える人材を育成してほしい。医師が医療に専念できる運営体制を構築し、人材を確保する-。これらを健全な財務の中で実現するために、賃金体系・人事制度の見直しを真剣に実行することを切望する。 

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 ながせ・けいすけ 筑波大医学専門学群卒。奈良県生駒市の新病院整備専門委員会委員、近江八幡市立総合医療センターの「あり方検討委員会」委員などを務めた。