くまさかよしひろ 岩手県宮古市長<医師>・・・地方では、大学病院などの基幹病院のある都市までの高規格道路の整備が遅れている。


『くまさかよしひろ 岩手県宮古市長<医師>・・・地方では、大学病院などの基幹病院のある都市までの高規格道路の整備が遅れている。国も地方自治体も、命の格差拡大を食い止める手段として、ドクターヘリによる「遠距離救急救命体制の構築」という新しい命題に、真剣にかつ早急に取り組む時期が来たと言える』 



(私の視点)ドクターヘリ 命の格差拡大食い止めよ 熊坂義裕 
2008.02.29朝日新聞   
  
今日の地域医療における最大の課題は、救急救命と急性期医療の地域間格差是正にある。医療費抑制政策と、四半世紀にわたって続けられた医師数抑制政策により、全国各地で医療崩壊が加速しており、中央と地方における命の格差は広がる一方だからだ。 

 私が管理者を務める宮古広域消防本部が管轄する面積は、神奈川県よりも広い2672平方キロ、そこに約10万人が暮らしている。地方における医師不足は直ちに医療不足となり、住民の命を脅かす。 

 昨年7月、宮古市内で唯一の中核病院である県立宮古病院の循環器科の常勤医師が不在となった。このため、盛岡市内の循環器専門病院に昨年緊急搬送した患者数は、一昨年の8倍と急増した。宮古市から約100キロ離れた盛岡市の岩手医科大学高度救命救急センターや県立中央病院などに搬送する場合、高規格道路が未整備なため、一般国道を使って2時間を要し、患者の身体的負担は計り知れない上、治療にあたる同乗医師の精神的負担もまた非常に大きい。 

 このような状況の中、岩手県の防災・消防ヘリを要請し、県立宮古病院から重篤な循環器疾患患者を含む4例を県立中央病院に搬送し救命することができた。盛岡までの飛行時間はおおむね20分で、同乗医師からは「患者への負担は非常に少ない」との感想がもたらされた。この経験は、医療過疎地域における、救命効果の高い医療提供手段としてのドクターヘリ導入の必要性を痛感させた。 

 高速自動車道が完備しているドイツがドクターヘリを導入して久しい。73機が配備され、要請があれば国内のどこにでも15分以内に到着できる体制を敷いている。導入後、救命率が格段に向上し、特に交通事故にいたっては死亡者が3分の1に激減したという。 

 一方日本においては、いまだ13道府県14施設での運用にとどまっており、岩手県のように面積が広大で、かつ医師が少なくドクターヘリが必要だと思われる地方ほど導入が遅れている。その唯一最大の理由は、年間で1機2億円近い運航費用の負担であろう。厳しい財政事情などから導入を躊躇(ちゅうちょ)している都府県が多い。 

 こうした中、昨年6月の国会で「救急医療用ヘリコプターを用いた救急医療の確保に関する特別措置法」が成立した。導入に際して国が費用の2分の1を補助することは変わらないが、民間からの基金を利用できるようになり、施行後3年をめどに、公的医療保険の適用など広く負担を求めるしくみを検討することが明記された。これにより、いや応無しに救急救命医療に対する都道府県の姿勢が問われることになる。 

 日本の医師数が絶対的に不足している現在、地方の医師不足はさらに深刻になっていく。加えて地方では、大学病院などの基幹病院のある都市までの高規格道路の整備が遅れている。国も地方自治体も、命の格差拡大を食い止める手段として、ドクターヘリによる「遠距離救急救命体制の構築」という新しい命題に、真剣にかつ早急に取り組む時期が来たと言える。 

 (くまさかよしひろ 岩手県宮古市長<医師>)