済生会宇都宮病院・・・症状が安定している軽症の患者に、自宅近くの診療所に通院するよう呼びかけている。外来患者数からみて、医師数は極限に近づいているため

『済生会宇都宮病院・・・症状が安定している軽症の患者に、自宅近くの診療所に通院するよう呼びかけている。外来患者数からみて、医師数は極限に近づいているため』・



(変わる診療報酬:下)医師支援策、効果は「?」 
2008.02.21朝日新聞   
  
救急、小児科、産科などを中心に、深刻な医師不足の状態が続く。今回の診療報酬改定で厚生労働省は、過重労働にあえぐ勤務医の支援策を打ち出した。だがそれだけですぐに効果が出るわけではない。現場からは「総合的な対策が必要」との声が出ている。(武田耕太) 


 ○ハイリスク出産、定義拡大 

 リスクの高い妊産婦を入院治療したときや、医療機関で連携をとって受け入れ調整したとき、診療報酬が手厚くつくことになった。 

 「ハイリスク」とは早産や高齢出産、肥満、糖尿病を持つ人ら。今回、このハイリスクの定義が広がり、対象となる妊産婦が増えそうだ。例えばこれまで報酬算定上の「早産」は妊娠22~27週だったが、32週未満までにのびた。出血しやすい人や前置胎盤なども加わった。 

 岐阜市の国立病院機構長良医療センターの川鰭(かわばた)市郎産科医長は、この定義拡大を評価する。 

 これまでは、早産となるのを避けるため、子宮が収縮するのを抑える点滴をするなど努力すればするほど「早産」の定義から外れ、報酬が低くなってしまったからだ。「なるべく長く胎内で育ったほうが、赤ちゃんにも母体にもいい。いい医療をしようと頑張ったら不採算になる仕組みはおかしかった」と川鰭さん。 

 今に比べて、加算対象となる妊産婦は増え、病院や医院にとって増収となるとみられる。厚生労働省はこの増収分を各病院に当直医の増員などにあててもらいたい、と期待する。 

 だがこれだけで、出産を引き受ける施設数が回復すると考える医師らは少ない。 

 この10年で周辺の病院・医院が次々とお産を扱わなくなったという富山県内のある病院の産科医長は、「年配の医師でも当直が重なり、体力は限界だ」という。さらに「これから専門領域を決める医学生の間で、産科は人気がない」と心配する。 

 川鰭さんは「若い世代が産科を嫌う一番の理由は、訴訟を起こされやすい診療科だから。医師が一定レベル以上の医療行為をしても起こる事故では被害者が救済される制度が必要だ。総合的な対策なしに、産科の医師不足は解決しない」と指摘する。 


 ○外来縮小を評価 「患者に不利益」、現場に異論も 

 外来を縮小する中核病院を評価する仕組みも取り入れられた。全国的に勤務医が不足するなか、外来はなるべく周辺の医療機関に担ってもらい、急性期を扱う中核病院は、難度が高く緊急性の高い入院患者に集中してもらおう、とのねらいだ。ほかに連日当直の勤務表はつくらない、勤務時間を病院が把握するなどの条件も加えて「医師の負担軽減に努力する病院」と認め、報酬を上積みする。 

 「厚労省が将来的に思い描く絵はわかる。だが、地域の中核病院で外来診療を受けたいという患者が多いのも現実だ」。約45万人を抱える地域の急性期医療を担う済生会宇都宮病院(644床)の中沢堅次院長はこう話す。 

 同病院は、症状が安定している軽症の患者に、自宅近くの診療所に通院するよう呼びかけている。外来患者数からみて、医師数は極限に近づいているためだ。 

 ただ、高齢化が進めば複数の病気を抱え、複雑な治療が必要になる。こうした患者は、やがて中核病院で治療する必要が出てきて、外来診察に通うようになる、と中沢さんはみる。「外来患者数を絞り過ぎると、患者にとって不利益。入院治療への特化は、簡単には考えられません」 

 今回の改定ではまた、夜間早朝や休日の救急患者が、中核的な病院に集中している現状を踏まえ、軽症患者らは地域の診療所で引き受けるよう誘導する報酬加算を導入した。 

 また、手術のうち食道がんや角膜移植など72項目については技術料を平均3割ほど引き上げ。材料代などに比べて手技料が安い、という外科医らの批判に応えた。また感染症患者の手術、出産時の帝王切開での麻酔など、医師に負担感の重い項目について、報酬を手厚くする。 

 小児科でも、子ども専門病院など高度な治療をしている施設を中心に入院料を引き上げ。新生児集中治療室(NICU)が満床で、新たな新生児や母親を受け入れられない地域がある問題については、NICUにいる子どもを引き受ける小児科病棟などを増やすため、重い障害児らの入院料を上げた。 

 これらの引き上げは、患者にとって負担増となる。ただし、子どもの医療費については、年齢によって、国や自治体の制度で免除や軽減措置がとられている。 


 ○事務作業補う「クラーク」 

 手術の承諾書や、民間の医療保険の診断書の作成なども医師の仕事。日中の診療が終わった後に、医師が再び机に向かって書く。 

 こうした事務的な作業を補助する「医療クラーク」を導入して勤務医の負担を減らそうという地域の中核的な病院に対する報酬が、今回の改定で盛り込まれた。配置する人数によって病院ごとに価格は異なるが、入院料(初日のみ)に上乗せされる。 

 例えば医療保険の診断書作成では、コンピューター上の診療記録などから必要な事項を記入。医師は間違いがないかなどを点検、修正するだけでよくなる。 

 このほか、医師の指示の下、空きベッドなどの救急医療情報システムへの入力や、がん症例の記録をする「院内がん登録」の統計・調査の作業などが想定されている。 

 「これまでは徹夜したり、休日に出勤したりして書いていた。病院がクラークを雇ってくれれば助かります」と、東京都内のある勤務医は話す。 


 ■国の医師不足対策は…(カッコ内は医療費。自己負担は原則3割) 

 【診療報酬による】 

 ●産科 

 ・妊産婦の救急搬送の受け入れ評価(入院初日5万円) 

 ・ハイリスク妊産婦の入院治療に加算(1日2万円) 

 ・ハイリスク妊産婦の範囲を拡大 

 ●小児科 

 ・高度な小児医療を担う専門病院の評価(1日4万5000円) 

 ・障害ある乳幼児の入院引き受けを評価 

 ●勤務医支援 

 ・外来診療の縮小や当直明け勤務軽減などに取り組む中核病院を評価(1日1200円) 

 ・診療所での夜間休日診療を促進 

 ・医師の事務作業を補助する「医療クラーク」配置を評価(入院初日1050~3550円) 

 【診療報酬以外】 

 ・都道府県に医療機関の集約化・重点化計画の作成を指示 

 ・医師不足地域への医師の短期派遣 

 ・大学医学部の入学定員増 

 ・小児救急電話相談事業(#8000)の普及 

 ・女性医師バンクの拡充 

 ・無過失補償制度の導入 

 ・医療事故安全委員会の設置準備 

 ・助産師の活用促進 

 ・ドクターヘリによる救急搬送の充実 

 (地域医療に関する関係省庁連絡会議「新医師確保総合対策」などから)