2次救急病院のドミノ倒し・・・公立病院改革ガイドラインは現状維持ではなく 構造改革による医師不足の抜本的改革により解決できる方策を示した・・


『2次救急病院のドミノ倒し・・・公立病院改革ガイドラインは現状維持ではなく 構造改革による医師不足の抜本的改革により解決できる方策を示した・・国の財政支援も十分措置された。自治体の自助努力にもはや期待できないので 公的病院の範囲を社会医療法人に迄拡大し 公立病院と同様の特別交付税措置等で支援する事になった』 


特集:救急医療・毎日新聞全国アンケート 危機的状況浮き彫り 
2008.02.04 毎日新聞  
  
救急医療の中核を担う2次救急病院と3次救急病院である救命救急センターが、医師不足や患者増であえいでいる。受け入れ病院がなかなか決まらない問題が各地で頻発しているが、毎日新聞の全国アンケートで、救急医療の危機的な実態が改めて見えてきた。どうすれば打開できるのか。アンケート結果を詳報するとともに、専門家に意見を聞いた。【高木昭午、野田武】 


82病院が1人で当直--2次 

 2次救急病院の回答からは、医師不足の影響により当直を極めて少数の医師で回し、不十分な体制のなか、時間外救急に取り組む実態が明らかになった。緊急手術に対応できない病院が4割以上に達し、ここ3年で診療体制を縮小した病院も2割あった。 

 回答のあった138の2次救急病院(平均病床数223)のうち、6割にあたる82病院が1人の当直医師で時間外救急に対応していた。複数の救急患者を同時に診察することが困難な状況を裏付けるデータと言える。平均当直医師数は2・2人だった。 

 また22%に相当する30病院が、05年1月以降の最近3年間に、何らかの形で救急体制を縮小したか、近く縮小する方針だと答えた。そうした病院には、比較的規模の大きい病院も多くあり、およそ半数は公立病院や赤十字病院など地域の中心的な医療機関だった。 

 茨城県内の病院は「常勤の外科医が退職したため、消化管出血など腹部の症状を訴える患者の受け入れをやめた」と明かす。このほか、頭部疾患の受け入れをやめた病院や、午前0時以降は当直医師の専門科の診察に限る病院などがあった。 

 また、西都医師会病院(宮崎県西都市)は「宮崎大から派遣されていた内科、外科の医師計5人が引き揚げた」として入院患者の受け入れをやめた。内科医師6人の退職のため夜間受け入れを午前0時までに制限した神戸市立医療センター西市民病院(神戸市長田区)や、同じく退職で手術ができなくなった病院など、深刻なケースもあった。 

 縮小の理由として、「医師不足」を挙げたのが、30病院のうち23病院(77%)に達し、「看護師不足」が8病院(27%)で続いた。また最近、医療事故で医療訴訟を起こされるケースも多く、「訴訟リスクを避けるため」と回答したのが4病院(13%)あった。 

 一方、夜間や休日などの診察時間外に緊急手術が可能かどうかの質問には、41%にあたる57病院が「不可能なことが多い」または「原則として不可能」と答えた。多くは医師不足を理由にしており、特に手術の際に必要な麻酔医が常時いないことを挙げたのが11病院に達した。 

 救急患者の増加に伴い、救急医療への期待は大きい。しかし高度に専門化した医療の中で「24時間すべての病気に対応するのは困難だ」との意見や、「救急患者受け入れに熱心な病院に患者が集中して負担が大きくなっている」といった意見が寄せられた。

 また「時間内の診察で十分なのに、自分の都合に合わせ時間外に来院する患者がいる」と、患者側に協力を求める声もあった。 

 不足医師数平均6.6人--3次 

 救命救急センターへのアンケートからは、センター自体が深刻な医師不足と、周辺の2次救急病院の弱体化による患者増で、重症患者を断らざるを得ない姿が浮かび上がった。 

 「重症患者を断らないために必要な救急専従医の数」と「現在の専従医の数」を両方回答したのは、85病院のうち71病院。うち68病院が、現在の専従医数が必要な専従医数を下回る「医師不足」の状態だった。不足医師数は平均6・6人。最大で22人不足と答えた病院もあった。 

 青梅市立総合病院(東京都)は、必要な救急専従医を6人と回答したが、現在は4人。「常勤の麻酔医も5人から2人に減り、夜間・休日の3分の1は緊急手術に対応できない」と訴える。また、麻酔医不足で月に20日程度、患者受け入れを制限せざるを得ない病院もあった。 

 医師不足に加え、救急医が若手医師に敬遠され、スタッフの平均年齢が高くなっている問題も出ている。 

 防衛医大病院(埼玉県)の阪本敏久准教授(57)は「診療の中心となる救急医6人の平均年齢は50歳を超えている。私も月4~5回の宿直をこなすが、翌日は使いものにならない」と打ち明ける。阪本准教授は「若手を増やすため、医師全員に一定の年限だけ救急医療に従事することを義務づけてはどうか」と提案する。 

 「最後の砦(とりで)」でもある救命救急センターだが、アンケート結果では、「重症患者を断る例が増えた」と答えたのが、85病院中33病院(39%)あった。その大きな理由の一つが、2次病院の弱体化による、しわ寄せとみられる。 

 「本来は2次救急医療機関が引き受けるべき患者が増えた」は回答全体で63病院(74%)に達し、特に「断る例が増えた」と答えた33病院の中では、32病院(97%)に上った。2次病院の健全化が大きな課題と言える。 

 一方、救命救急センターの患者が増える理由として、他の病院による「診たくない患者」の押しつけを挙げた回答も複数あった。 

 精神障害患者、外国人、住所不定の患者、高齢者などに対し、表向きは「専門外」「処置困難」などを理由にして断る病院が目立つというのだ。だが本音は違う。「手間がかかるわりに収益が少なく、時に未払いやトラブル、訴訟になるため診たくない」という。 

 こうした患者は救命センターに収容されて病状がやや回復した後も、転院先の病院を見つけにくく、センターでの入院が長引く。これも満床の一因になっているという。 

 相次ぐトラブル--現行システムに異論も 

 厚生労働省は従来、救急患者を重症度によって、初期(1次)、2次、3次の3段階に分け、それぞれを別の病院が担当する制度を作ってきた。経済的な支援として、2次救急病院が日替わりで救急診療当番となる「輪番制」に国庫補助を出していたが、05年度から一般財源化。輪番制度の廃止や、離脱する病院が目立つようになった。 

 そうした状況のなか、06年には奈良県・町立大淀病院の妊婦死亡問題が発覚。昨年12月には大阪府富田林市の女性(89)が約30病院に受け入れを断られるなど、救急患者の搬送先や転送先がなかなか決まらないトラブルが相次ぎ、産科救急を含めた救急医療体制のほころびが表面化した。 

 現在、総務省消防庁がこうした事例の実態調査を進めているが、毎日新聞のこれまでの取材では受け入れを断ったのは、空きベッドがないことや対応する医師がいないことなどが主な理由だった。しかし本来、救命センターは「重篤な救急患者を常に必ず受け入れることができる診療体制」が求められている。 

 一方、患者の症状によって3段階に分ける現システムに対する異論も出ている。重症度の判断が難しく、2次病院に運ばれた患者が実は重篤だったケースも多いからだ。2次病院から救命センターに転送される患者数は、年間10万人近いと推計される。 

 このため「初期から3次まで全患者を一つの病院に集中させ、手遅れになるのを防ぐべきだ」と主張する医師も多い。今回のアンケートでも「初期、2次、3次病院の機能分化を」と訴える声と、患者集中を訴える声の両方があった。 

 搬送、高齢化で急増--05年496万人、10年で1.6倍に 

 救急患者は、全国的に急増している。総務省消防庁によると、05年に救急車で運ばれたのは全国で約496万人に達した。95年には316万人だったといい、10年で約1・6倍に増えたことになる。 

 その理由の一つとして、消防庁は「高齢化」を挙げる。05年に搬送された65歳以上の高齢者は220万人で、搬送者全体の44%を占めた。高齢者12人に1人が搬送された計算で、64歳未満の37人に1人に比べ、率は3倍に達した。しかも高齢者人口は急増。95年の約1800万人に対し、05年は2600万人と1・4倍に増えた。 

 高齢化以外には、核家族や老人だけの世帯が増え、家族内での病状判断や病人の世話が難しくなったことなどが指摘されている。しかし、それを示す明確なデータがあるわけではない。また、本当は搬送の必要がない軽症なのに救急車を病院までのタクシー代わりに使う人がいる、との指摘もあるが、その割合は低いとみられる。 

 東京消防庁は昨年6月から、搬送不要な軽症者の基準を設け、基準に合う人は、同意を得た上で救急車で運ばない制度(トリアージ制度)を始めた。だが同庁の年間搬送者数70万人に対し、運ばずに済む人は当初の見積もりでも約5000人に過ぎない。実際に運ばなかった人数はさらに少なく、制度開始後半年で、約100人にとどまった。

 診療報酬引き上げを 不採算で縮小、悪循環心配--山本保博・日本救急医学会代表理事 

 今回のアンケート結果について、日本救急医学会の山本保博代表理事(日本医科大教授)に分析、解説してもらった。 

   
 2次救急病院の2割が救急診療を縮小したのは相当に影響が大きい。縮小で、他の2次救急病院の負担が増し、負担が増した病院がまた縮小する、という悪循環が心配だ。縮小の影響は、救命救急センターにも及んでいるとみられる。 

 縮小の理由は、アンケート結果では主に医師不足となったが、不採算も大きな問題だ。 

 救急診療には、医師だけでなく、看護師やレントゲン(診療エックス線)技師、事務員なども必要だ。緊急手術ができない2次救急病院が4割あったが、手術となれば麻酔医などさらに多くのスタッフがいる。 

 夜間・休日にスタッフをそろえれば、経営効率は悪い。極端に言うと、例えば日中の3分の1しか患者が来ないなら、採算を取るには3倍の診療報酬が必要だ。経営負担に音を上げて救急を縮小する病院もあるだろう。救急医療の診療報酬を引き上げるべきだ。 

 重症患者を断ることが増えた救命救急センターが4割弱、という数字には「そこまで来たか」と思った。救命センターは本来「救急診療の最後の砦」であり、いつでも、どんな患者でも受けるべきだ。しかし2次救急病院の縮小や医師不足に加え、長期入院しそうな高齢者やアルコール依存の患者、精神科の患者など、他の病院が診療したがらない患者が救命センターに流れ、ベッドがいっぱいになるのが実情だ。 

 1救命センターあたり医師が6~7人足りないとの結果は、救急医がもともと、全国的に足りない実情が背景にある。若い医師は「救命こそ医師の本分」という使命感が薄れてきており、時間外診療が少なく患者の生死にかかわらない診療科に流れがちだ。 

 大学での医学教育を改革して救急を今以上にしっかり教えるべきだ。また、標ぼうできる診療科に「内科」や「外科」はあるが、いまだに「救急科」は認められていない。「救急科」を早急に創設して、救急医の立場を強めるのも、成り手を増やす方策になると思う。(談) 

 ■救急医療を巡る最近の動きとトラブル 

05年4月 2次救急患者を病院が交代で診療する「輪番制」に対する国庫補助が一般財源化され、市町村の単独補助に 
06年5月 2次救急の63病院が輪番制から離脱したことが、毎日新聞の全国調査で判明
8月 奈良県の町立大淀病院で分娩(ぶんべん)中に意識不明になった妊婦(32)が19病院に受け入れを断られ、大阪府内の病院に転送されたが死亡
07年8月 下腹部痛を訴えた奈良県の妊婦(38)が、9病院に受け入れを断られ、救急車で大阪府内の病院に運ばれる途中に死産 
11月 福島市で交通事故にあった女性(79)が、4病院から受け入れを断られた後に死亡
12月    嘔吐(おうと)などを訴えた大阪府の女性(89)が、30病院に受け入れを断られ、収容先の病院で死亡 
08年1月 交通事故に遭った大阪府の男性(49)が、救命救急センター5カ所に受け入れを断られ、その後死亡 
1月  総務省消防庁が、重症者の救急搬送例について、受け入れ拒否の実態調査を決める
1月 胸痛を訴えた東京都の女性(95)が、11病院から受け入れを断られ死亡


■救急医療改善に関する専門医の主な意見(アンケートから) 

2次病院・東北地方 国として医師・看護師の増員を 
関西地方,不採算の医療部門への公的資金援助を,

中部地方 勤務医の過重労働軽減を 

関東地方 初期救急患者を総合的に診療できる医師の育成を 

関西地方 各診療科の医師が常に地域のどこかで当直する制度を 


3次病院・関東地方 初期救急は開業医が担当を 

関東地方 初期~3次まで全患者を区別せず診療する体制を 

九州地方 精神科、小児科、産科の救急拠点病院の整備を 

東北地方 都市に集中する救急医を厚労省が地方に振り分ける 

関東地方 名ばかりでない本当の救命センターに人と資金の集中を 

 
■2次救急病院への主な質問と回答 

Q 05年1月以降、救急体制を縮小したか 

 縮小した(30病院、22%) 

 変わらない(86病院、62%) 

 強化した(21病院、15%) 

 無回答(1病院) 

Q「縮小した」病院の理由(複数回答) 

 医師不足(23病院) 

 看護師不足(8病院) 

 医療訴訟のリスクを避ける(4病院) 

 救急医療は不採算(2病院) 

 自治体など行政の補助金廃止(1病院) 

 救急患者受け入れ要請減(1病院) 

 その他(6病院) 

Q時間外に緊急手術が可能か 

 常に可能(26病院、19%) 

 原則可能(53病院、38%) 

 不可能なことが多い(22病院、16%) 

 原則不可能(35病院、25%) 

 無回答(2病院) 

 
■救命救急センターへの主な質問と回答 

Q 05年1月以降で「本来は2次救急医療機関が引き受けるべき」病状の患者を受け入れる例は増加したか 

 かなり増加(34病院、40%) 

 やや増加(29病院、34%) 

 変わらない(17病院、20%) 

 やや減少(3病院、4%) 

 かなり減少(0病院、0%) 

 無回答(2病院) 

Q 重症救急患者の受け入れ要請を断る例は、最近3年間で増加したか 

 かなり増加(9病院、11%) 

 やや増加(24病院、28%) 

 変わらない(40病院、47%) 

 やや減少(6病院、7%) 

 かなり減少(5病院、6%) 

 無回答(1病院) 

Q 要請を断る例が「増加」や「減少」した理由(複数回答) 

 【増加理由】 

 2次病院の救急患者受け入れ減少(22病院) 

 危機を脱した患者を他院や他科に送りにくくなった(20病院) 

 医師、看護師不足(24病院) 

 地域の救急患者増(12病院) 

 その他(8病院) 

 【減少理由】 

 2次病院の救急患者受け入れ増(1病院) 

 医師や看護師の増加(5病院) 

 その他(6病院) 

 ◇回答率は73.8% 

 アンケートは、全国の2次救急病院計約4000病院の中から計200病院を、3次救急病院である救命救急センター全203病院の中から102病院を、それぞれ無作為に抽出し、合わせて302病院を対象とした。 

 このうち2次病院は138病院(69%)が回答し、救命救急センターは85病院(83%)から回答が寄せられた。回答率は73.8%だった。調査期間は、1月17日から約1週間。短期間で、これだけ高い回答率に達した背景には、救急医の危機意識があるとみられる。