選択と集中で 産婦人科の消滅が救われた・広島県呉市・・・広島大と広島県、市医師会に加えて、産科のある市内の別の病院も議論に参加し、3病院の産科を2病院に集約化


『選択と集中で 産婦人科の消滅が救われた・広島県呉市・・・広島大と広島県、市医師会に加えて、産科のある市内の別の病院も議論に参加し、3病院の産科を2病院に集約化』 

[社会保障安心]医師不足 地域・診療科で偏在 
2008.06.03読売新聞 抜粋  

 ■環境変化 

 医療が高度化・複雑化し、患者に対して十分に説明するよう求められるようになるなど、医療環境が急速に変化していることも、医師不足の大きな理由だ。入院期間の短縮も加わって、医師1人当たりの負担が重くなり、特に病院勤務医の過重労働が広がった。勤務医が病院を辞めるケースも増え、病院での医師不足に拍車をかけた。 

 「そこに、04年に新医師臨床研修制度が始まり、大学医局の崩壊も伴って、地域の医師不足を一気に顕在化させることになった」と、真野俊樹・多摩大教授(医療経済学)は指摘する。 

 それまで新卒医師は、主に大学病院で研修していた。ところが、新制度で研修病院を選べるようになると、都会の民間病院などに人気が集中。人手不足になった大学病院は、地域の病院から医師を引き揚げざるをえなくなり、医師派遣の役割を担えなくなった。 

 医師の専門志向が進み、専門分野しか診ない医師が増えたことも、地域での医師不足を助長した。診療科別の偏在も大きく、実際に診療に当たる医師の数は毎年3500人程度増えているのに、不足が指摘される産科医は減少している。 

 ■対策の効果 

 政府が昨年5月に打ち出した緊急対策では、臨時的医師派遣のほか、病院勤務医の過重労働の解消や女性医師が働きやすい環境整備、医療事故の原因究明制度の構築などが盛り込まれた。医学部定員の臨時増も認められ、今年度の入学者は北海道や東北などで168人増えた。 

 ただし、政府は「2022年以降は医師過剰になる」(厚労省推計)としており、定員増はあくまで10年程度の暫定措置だ。しかも、一人前の医師になるまでに約10年かかり、即効薬にはならない。 

 小山田恵・全国自治体病院協議会長は、「医師数抑制一辺倒だった姿勢を改めたことは大きな一歩」と緊急対策を評価する一方で、「今、問題となっているのは、病院からの勤務医の流出だ。だが、当直明けの休みを義務付けるといった、実効性のある対策が示されていない」と指摘する。 

 兵庫医療大の松田暉学長は、診療科別の医師の偏在にも踏み込んでいないとし、「医師が診療科を自由に選べる日本の仕組みが偏在を助長している。診療科ごとに必要な医師数を算定したうえで、専門医制度と組み合わせ、診療科に定員制を導入するべきではないか」と提案する。 

 舛添厚労相の肝いりで設置された検討会が、今月上旬にも「安心と希望の医療確保ビジョン」をまとめる。財源の手当ても含め、思い切った対策が期待される。 


 ◆産科集約で「崩壊」防ぐ 3病院→2病院に/広島・呉 

 人口当たりの臨床医数が、全国で唯一減少する広島県。人口約25万人の同県呉市では昨年、二つの病院で勤務医が開業などで退職し、産科の診療が立ち行かなくなった。広島大と県、市医師会に加えて、産科のある市内の別の病院も議論に参加し、3病院の産科を2病院に集約化した。 

 「あのまま放っておいたら2病院とも産科医療が崩壊していた。“難産”だったが、最終的には住民を含め関係者の理解が得られた」と豊田秀三・市医師会長は振り返る。3病院間で医療機能の役割分担が生まれるなど、副産物もあった。 

 同県はさらに、人手不足に悩む大学医局だけでなく、地域の臨床研修病院も加えた新たな医師派遣システムを全国で構築するよう厚労相に提案した。 

 現在の医師不足は、医療資源が有効に活用されていない結果という側面もある。集約化を進めるとともに、大学医局と地域全体が連携した医師配置の仕組みを作る必要がある。 
  

(集約化の報道記事) 

「里帰り分娩の対応中止 呉医療センター、来月から 中国新聞'08/1/16」 
  
▽産科集約控え急増 

 呉圏域の産科医療集約化決定を受け、四月から集約先の一つとなる呉市の国立病院機構呉医療センターは、転院を伴う分娩(ぶんべん)が急増したため、実家がある呉市で出産する「里帰り分娩」の受け入れを二月から当面、中止する。病床不足から産後の入院期間を短縮させるなど妊婦への影響も出始めた。 

 呉医療センターによると、分娩は月約四十~五十件台で推移。それが昨年十一、十二月はともに八十九件、一~三月は月九十件を超える見通し。急増について「他院の分娩制限と、昨年十一月に決定した集約化で出産できる公的病院がなくなる心配から急きょ転院してきたことが原因」(佐治文隆院長)と分析する。 

 呉医療センターでの二〇〇六年度の分娩のうち「里帰り分娩」は二百四十八件あり、全体の40・3%を占めている。 

 昨年十一月以降の急増にはこれまでと同じ産婦人科の医師七人で対応しているが、受け入れの医療体制が十分整わないなどの中で、「今の呉市民を優先させる」ために里帰り分娩の当面の中止を決めた。 

 さらに、産後入院は通常約七日間だが、病床不足のカバーなどのため異常がなければ一~二日短縮するなどの緊急措置を行っている。十一月に出産した市内の三十代女性は「十分な説明もなく小児科病棟に移り、退院が一日早まった」という。 

 佐治院長は「集約化の決定を受けた転院が多く、里帰り出産を制限する決断をした。ハイリスクの妊婦に加えて、婦人科のがん患者も多い。全力で対応するが医師の疲弊も心配だ」としている。(吉村明、増田咲子) 

 ●クリック 呉圏域の産科医療集約化 

 広島大が呉共済病院(呉市西中央)に派遣していた産婦人科医師3人を引き揚げ、4月から国立病院機構呉医療センター(呉市青山町)と中国労災病院(呉市広多賀谷)に集約する。医師数は呉医療センターが現在と同じ7人、中国労災病院が2人から6人に増える。呉共済病院の産婦人科は休診となる。 【写真説明】分娩件数が急増し、里帰り分娩中止など妊婦への影響も出始めた国立病院機構呉医療センター 

 ◎取材メモから 妊婦のケア優先を、集約化早くも影響 

 四月に始まる呉圏域の産科医療集約化で、妊婦への影響が早くも出始めている。国立病院機構呉医療センター(呉市青山町)は出産が急増したための窮余の策として、里帰り分娩(ぶんべん)を当面中止せざるを得なかった。 

 呉共済病院(呉市西中央)の産婦人科休診を伴う集約化を不安に思った妊婦の増加や、中国労災病院(呉市広多賀谷)の医師減による分娩受け入れ制限の影響で、呉医療センターの忙しさが極限まで達しているという。 

 呉医療センターで出産した女性は「スタッフに悩みを相談できないほどの慌ただしさだった」。別の女性は「出産はメンタル面のサポートが大事。親元での出産は精神的な負担が軽減されるのに…」と残念がる。市民の間でも里帰り分娩を望む声は根強い。 

 集約化は産婦人科医師不足の危機を乗り切り、医療体制の強化を図るための緊急措置。昼夜を問わない勤務医の疲弊を和らげる意味でも集約化の必然性は理解できる。 

 ただ、新たな対応策を導入するために現場が混乱しては意味がない。心身ともに不安定になりやすい妊婦への目配りこそ最優先されるべきだ。(増田咲子)