ガイドラインの モデル 北海道夕張市の市立総合病院・・・そもそも百七十一床の総合病院という枠組みがおかしかった


『ガイドラインの モデル 北海道夕張市の市立総合病院・・・そもそも百七十一床の総合病院という枠組みがおかしかった。現在の十九床で十分。救急指定病院も不要。市民に必要な『ニーズ』ではなく、求める『ウォンツ』にばかり応えていたから経営破たんした。ある意味、自治体病院の悪い面が全部出た』 


 特報 夕張医療センター再出発1年 171→19床に 脱“コンビニ受診” 予防、訪問診療に力 運営医療法人財団 村上理事長に聞く 
2008.03.18 中日新聞  
  
 経営破たんした北海道夕張市の市立総合病院が、公設民営による診療所「夕張医療センター」として再スタートを切って今月末でちょうど一年となる。人口約一万二千人のうち四割以上が六十五歳以上という高齢化が進んだ同市。施設の規模を縮小する一方、予防医療、訪問診療に力を注ぎ、徐々にではあるが経営は軌道に乗り始めている。診療所を運営する医療法人財団「夕張希望の杜(もり)」の村上智彦理事長(47)にこの一年について聞いた。(鈴木伸幸) 

 「そもそも百七十一床の総合病院という枠組みがおかしかった。現在の十九床で十分。救急指定病院も不要。市民に必要な『ニーズ』ではなく、求める『ウォンツ』にばかり応えていたから経営破たんした。ある意味、自治体病院の悪い面が全部出た」 

 夕張医療センターの会議室で、村上氏はこう切りだした。 

 総合病院は十万人規模の背景人口があって採算が取れるとされる。夕張市も炭鉱の全盛期に人口十万人を超えたが、一九七〇年代以降の相次ぐ閉山で過疎化し高齢化も急速に進んだ。 

 「縮小すべき時に何もしなかった。不作為の作為。『あれも、これも』ではなく、『あれか、これか』で身の丈を考えなければいけなかった」 

 一年前、市立総合病院の職員約百五十人は解雇され、そのうち約七十人を同センターが再雇用。現在は村上氏を含む総合診療科の医師三人と歯科医師一人が常勤し、眼科医と整形外科医が非常勤だ。四十床の介護老人保健施設も併設する。 

 病床を減らすことに、地元の反発は強かった。だが、村上氏は「入院患者の八割から九割は、医療より介護が必要な社会的入院。本当に入院が必要な患者は少ない。実際、十九床にしても問題はなかった」。 

 夕張市では、高齢化率の割に要介護認定されている人数が少ない。「市の怠慢で必要な要介護認定をせず、何かあれば病院に入院させていた。本来、保険医療と福祉は連携が必要だが、ここには福祉は不在で病院にすべてを丸投げしていた」。この構図を変えるためにも、病床数の削減は必要だったと振り返る。 

 救急指定病院についても「必要」とする市民は多かったが、村上氏は「不要」と断言する。「時間外の患者は緊急性がない『コンビニ受診』がほとんど。それがなくなるのが嫌なだけ」。実際、以前は救急車をタクシー代わりに使う人もいたという。「病院をこんな使い方をしていたから破たんした。これこそ市民の自己責任」 

 医療センターの外来患者は一日平均で約百人。夕張は総合病院がなくなったとはいえ厳密には医療過疎地ではない。隣接する岩見沢市に総合病院があり、札幌まで車で一時間程度。総合病院があった時代にも、夕張市民は専門医にかかる場合には市外に出ていた。 

 地元医師会にも甘えがあった。市内には四カ所の民間診療所があり、休日診療は輪番制だったが、実際は患者をすべて総合病院に回していた。 

 村上氏はこの悪習も絶った。昨年四月、診療所化を機にコンビニ受診を受けないことを宣言。それぞれの診療所に地域のかかりつけ医になってもらい、責任を持つよう促した。 

 徐々に「自称、急患」は減り、宿直医も睡眠が取れるようになった。「これが、本来の姿。コンビニ受診で医師を疲弊させてはいけない」 

 医療施設の縮小均衡化に成功した村上氏は、ことあるごとに予防医療の徹底を強調。食生活の改善や適度の運動などの生活指導をし、必要な予防接種をして病気を防ぐ。一般論で、医師という職業は利益相反を抱える。患者を治して診療報酬を受けるが、患者がいなくなれば報酬もなくなる。 

 だが、村上氏はその発想を否定する。 

 「健康指導で医師と市民に信頼関係ができる。医療機関の敷居を低くしておけば、市民は予防で通院してくれる。それに高齢者が多い夕張では、いくら予防しても必ず病人は出る。ある意味で薄利多売といえるやり方だが、結果的に病気の重篤化を防ぎ、医療費を削減できる。これが地域医療の在り方」 

 こうした予防医療と並び、村上氏が重視するのが訪問診療だ。総合病院時代は往診をしなかったが、現在は三十軒を訪問先とし、今後も増やす予定だ。「在宅支援診療所」という認定も取得し、往診の診療報酬が上がった。 

 「一歩先行く村上方式」と呼ぶ医療関係者がいる。例えば、総合病院の診療所化に当たり、単独では赤字の歯科を残すかで議論があった。村上氏が「高齢者の口腔(こうくう)ケアは必要」と判断して、残したいきさつがある。 

 それが、四月の診療報酬改定で医師と歯科の協力が診療報酬になる。自治体病院経営に詳しい城西大の伊関友伸准教授は「医療行政の流れを読んでいるから(診療報酬の)点数が付いてくる」と話す。 

 もっとも、医療センター運営は順調なことばかりではなかった。施設のバリアフリー化やトイレの改装、光熱費などの維持費を負担する約束を、市は実行しなかった。しかもいまだに前例主義で、センターが新しいことをやろうとしても、市がブレーキをかけてくることがあるという。 

 そんな時に「だから破たんしたんだ。また破たんしますよ」と訴え、大胆な改革を推し進めてきた。高齢化率42・3%は将来の日本の姿でもあり、夕張での挑戦は、“最先端”の取り組みでもある。 

 全国の自治体病院の多くが経営上苦しく、村上方式を参考にしようとする自治体もあるが、破たん前の夕張市がそうだったように「先送り」を繰り返すのがお役所の常だ。

 村上氏は皮肉を込めて、こう言う。「夕張方式はいいですよ。一度、破たんしてみては。だけど、第二の夕張は非難はされても、同情はされませんよ」