『自治労連県本部の金川佳弘さんは指摘する。数値目標がなく、努力目標になっている。緊迫感がない。このままだと公立病院はバタバタと倒れる』


『自治労連県本部の金川佳弘さんは指摘する。数値目標がなく、努力目標になっている。緊迫感がない。このままだと公立病院はバタバタと倒れる』 


連載/国政を問う, 07あおもり岐路・進路 5/医師確保 緊急対策/実効性乏しく失望/「絶対数を増やすべき」

 

十和田中央病院新病院完成予想図



2007.07.17東奥日報社 
  
 患者でごった返す十和田中央病院の中で、さびしげな空間があった。「産婦人科」と記された掲示の電気は消え、ひっそりとしていた。二年前まで輝いていた妊婦の笑顔や新生児の鳴き声は、今は消えてなくなっていた。東北大による医師引き揚げによって病院の産科は休止のままになっていた。 

 「あらゆるコネ、ツテを探って、産科医の情報を集めているのですが…。医師が本当にいないんです。産科だけでなく、内科、外科もすべて。今いるドクターが過労で倒れてしまうんじゃないかと冷や冷やしています。なぜ、こうなったのでしょうか」と、佐々木隆一郎事務局長の苦悩は深い。 

 医師不足を訴える全国の悲痛な声を受けて国は今年五月、緊急医師確保対策を発表した。医師不足地域に国が医師を派遣するという。 

▼派遣要件に合致せず 

 「もしかしたら」と、病院スタッフの期待が膨らんだ。「十和田に産科医が派遣されるかもしれない」と情報を集めた。 

 しかし、希望はすぐに失望に変わった。医師派遣要件は、最近六カ月以内に休診した病院。派遣されるとしても三―六カ月の短期間。「これでは使えない」。がっくりと肩を落とした。

 国は六月、医師派遣第一弾として岩手県など五道県に医師七人を派遣することを決めた。「産科を休止した十和田や弘前市立など、本県にはもっと困っている病院があるのに」。県幹部は悔しそうに言った。 

 国の医師不足対策では勤務医の過重労働軽減、女性医師支援などが並ぶ。目新しいものはない。 

 医療問題に詳しい自治労連県本部の金川佳弘さんは指摘する。「数値目標がなく、努力目標になっている。緊迫感がない。このままだと公立病院はバタバタと倒れる」 

 「参院選の直前になって、出てきた“お題目”ばかりのひどい内容。末梢(まっしょう)の対策でなく、抜本的な医師不足対策が必要。医師の絶対数を増やすべき」と、露骨にいら立ちを見せる医療関係者もいる。 

 七万人都市・十和田市で分娩(ぶんべん)を扱うのは現在、開業医一軒となっている。昨年度の出生四百八十件のうち約35%がこの開業医が取り扱った。他の妊婦は五戸、八戸、三沢、七戸と周辺市町で出産している。 

 「医師確保も大切ですが、妊婦の負担を軽減する対策もぜひ必要です。妊婦の無料健診を拡大する国の助成も大切」。十和田市健康推進課の新井山洋子課長は訴える。「医師を集約するのであれば、拠点病院がどの地域までカバーするのかちゃんと決めてほしい。助産師の力を生かせるように制度を整えてもらいたい。十和田中央病院には十七人も助産師がいるんです」 

▼分娩施設できるが… 

 同病院は、来年春、現在の建物の隣に新病院が完成する。分娩施設を備えた産婦人科も整備される。 

 市民の中には、新病院ができれば、産科が再開する―と思っている人もいる。「それを思うと胸が痛む」(佐々木事務局長)。妊婦や新生児でにぎやかだった“かつて”を知っている職員は言う。「涙が出るほどつらい。今が一番苦しい時。へこたれてしまうと上十三の医療はどうなるのか。是が非でも生き抜く」 

 今年初め、蘆野吉和院長は医療スタッフに言った。「地域医療の崩壊はこの二年で確実に起こる。混沌とした医療情勢の中で、足元を固めよう。地域との対話進めよう。医師不足を補うため、チーム医療を進めよう。各自考えて仕事をしよう」 

 それは、病院生き残りの時代を迎えて、発せられた“非常事態宣言”でもあった。(社会部・菊谷賢) 

●メモ 

政府、与党は5月末、国が主導して緊急に医師を派遣することを柱とした与党の緊急医師確保対策を決定。短期間の対策として、国立病院や規模の大きな民間病院を中心に派遣機能を持たせ、国が都道府県からの求めに応じて各地の自治体病院などに派遣する体制を構築。制度の第1号として北海道、岩手、栃木、和歌山、大分の5道県にある6病院に、全国の国立病院などから募った医師7人を送ることを決めた。このほか(1)都市部に集中する研修医を地域に誘導するための定員の見直し(2)出産事故に備えた補償制度の早期実現(3)医学部の定員増を臨時的に認め、地元定着率が高い「地域枠」の拡充―などを盛り込んだ。