『公立病院は 研修医の確保のために あらゆる 手立てを 速やかに 始める必要がある』


福井大医学部附属病院

『公立病院は 研修医の確保のために あらゆる 手立てを 速やかに 始める必要がある』

地域医療は今・大学病院(1)「売り手市場」で医局離れ(連載) 
2007.12.04 読売新聞  
  

1週間前の、有無を言わせない“異動発令”だった。「来週からA病院だ」。甲信越地方の国立大学病院に勤務する30歳代の男性医師に、担当教授はこともなげに、山間部に近い公立病院への派遣を通告した。 

 「教授の命令は絶対。逆らえば、この世界では生きていけない」。医師は従った。へき地の病院に人材を強制的に派遣する医局人事は「地域医療を支える必要悪」とも考えた。 

 4年がたった昨年暮れ、医師は1本のメールを教授に送りつけた。「A病院を辞めます」。未明でも頻繁に呼び出される激務に耐えかねた。事前相談のない辞職は、医局との絶縁を意味した。教授からは慰留もあった。医師はしかし、考えを変えていた。「医局を離れても食っていける」 

 インターネットには民間に転職する大学病院勤務医の話題があふれ、医師専門の就職仲介会社もある。「拘束時間の短い病院」を条件に依頼すると、紹介は20件近く。医師は今春、都内の民間病院に就職した。 

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 かつて、大半の国公立の大学病院には、7割以上の卒業生が入局した。医局は地域の医師供給役を担い、若手は派遣先で基本症例を診て技術を磨いた。関東の国立大学病院に約20年間在籍した医師は言う。「逆らえば地域一円で就職しにくくなる」。医局には威圧感もあった。

 ところが数年前から、過労などを理由に医師の流出が目立つようになった。引き金は、2004年度に導入された臨床研修制度。卒業した新人医師に複数の診療科経験を2年間義務付ける制度だが、厚生労働省の指定研修先に一般病院も含まれたこともあり、待遇がよく、多くの基本症例を学べる民間病院に就職する医師が相次いだ。 

 こうした医局離れを象徴するように急成長したのが、医師向けの就職仲介会社だ。業界には100業者近くがひしめくと言われる。その一つ、「フェーズワン」(東京)には10月現在、医局の医師ら転職を希望する8869人が登録し、同社が仲介業を始めた04年の19倍に膨らんだ。同社の担当者は言い切る。「医師の世界は売り手市場です」 

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 研修制度の導入に合わせ、日本医師会などは、希望と受け入れ先を調整するため、「医師臨床研修マッチング協議会」(東京)をつくった。同協議会によると、来春は、国公立大学51病院のうち45病院で研修医が定員に満たない見込みだ。三重大や弘前大が20%台にとどまるなど、地方の充足率が軒並み低い。 

 36・7%にとどまった群馬大が今秋実施したアンケートでは、研修先として医局以外を選択したのは、回答した学生57人のうち38人に上る。医局に対して「給料が少ない」「雑用が多い」「専門分野に偏る」といった意見が目立つという。 

 こうした中、福井大医学部付属病院は年3回ほど、研修医と教授陣との懇談会を開いている。研修医の本音を聞き出すためだ。研修医の要望を受け、休みの確保や福利厚生面の充実などに取り組んだ。その成果か、一時11人に減った新入研修医は今年度、30人にまで回復した。 

 上田孝典病院長(58)が打ち明ける。「研修医による病院の評判がネットなどで後輩に伝わり、判断材料になっているらしい。対策が必要なのです」 

 黙っていても若手が集まる時代は終わった。人材確保は今、医局の緊急課題になっている。

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 医師不足に端を発する「休診」や「たらい回し」などの問題が各地で相次いでいる。多くのケースでやり玉に挙がるのは、医局による「派遣医師引き揚げ」。国公立大学病院で何が起きているのか。異変を追う。 


 〈医局〉 

 大学病院の各診療科が束ねる医師集団。教授を筆頭とする「教員」、「医員」(一般医師)、大学院生、研修医のほか、他の病院に派遣された医師も所属する。最近では、人事面で希望を優先したり、医局という呼称をやめたりする大学もある。