自治体病院:巨額赤字 民間移譲/公設民営/広域連携...多様化進む運営

自治体病院:巨額赤字 民間移譲/公設民営/広域連携…多様化進む運営 

2007.12.03 毎日新聞  
  
全国の自治体病院が赤字に苦しむ中で、再編・統合や民営化の動きを加速させている。毎日新聞が実施した全国調査では、累積赤字が06年度末で1兆8585億円に上ることが判明し、自治体財政を圧迫する状況が浮き彫りになった。一方で、市町村の枠を超えた連携で医師不足を解消しようとしたり、民間委託や独立行政法人化など経営形態を改革する取り組みも進んでいることが分かった。【まとめ・田畑悦郎、井出晋平】 

 大阪府南部の忠岡町は今年3月、公立忠岡病院を閉院にした。医師の確保が難しく、存続しても赤字が毎年約3億円増える見込みだったからだ。閉院時の不良債務は9億2000万円。藤田勉町長公室長は「町本体の財政がもたなかった」と説明する。幸い車で10分程度の岸和田、泉大津、和泉の各市に総合病院が完備。閉院時に事務長だった前川喜代治・事業部長は「代替病院があったから住民への悪影響を最小限にできた。忠岡では自治体が担う病院の役割は終えた」と話す。 

 病院を民間移譲し、地域医療を確保する動きが出ている。宮城県石巻、東松島両市が運営する公立深谷病院は、赤字が膨らみ今年3月閉院したが、後継法人を公募し、埼玉県の医療法人への経営移譲が決定。土地建物を無償貸与し今年9月、石巻ロイヤル病院として再出発した。

 民間の医療機関などに運営を任せ、経営効率化を目指す公設民営の導入も目立つ。横浜市は、旧市立港湾病院の老朽化に伴う建て替えの際、横浜赤十字病院を運営する日赤に委託。救急患者の積極受け入れなどで06年度は8億円の赤字ながら前年度の4分の1以下に減少した。富山県の氷見市民病院は08年4月から金沢医科大に運営を任せ、医師の安定確保を目指す。 

 大阪府は06年度から5府立病院を地方独立行政法人に組織変更。初年度から13億円の黒字(05年度は赤字4億2000万円)を確保できたのは、右肩上がりの職員給与体系の見直しなど柔軟な組織運営が可能になったからだ。赤字を自治体の連結決算対象から切り離せることから、兵庫県の神戸市(2病院)、芦屋市が09年度からの独法化を目指している。 

 広域連携の動きも進む。北海道では30区域に分け、域内で市町村の枠を超えた広域連携を目指す。中核病院を指定し、周辺病院は診療所化など規模を縮小するが、中核病院に救急機能などを集約して医師不足を解消し、赤字による共倒れを防ぐ方針だ。 

 愛知県東海市では市民病院と民間の東海産業医療団中央病院が08年4月をめどに統合する。公立と民間の統合は極めて異例だが、医師不足で単独運営が難しくなり、統合が不可欠と判断した。兵庫県但馬地域では豊岡病院(豊岡市)を急性期医療の拠点とし、周辺8病院を慢性期対応にする役割分担の連携が進む。 

 ◇統廃合に反発も 

 だが、住民の利害調整は簡単ではない。山口県山陽小野田市では2市民病院の統合を決めたが、廃院が決まった病院周辺の住民による存続署名運動に発展。北海道の旧産炭地の中空知地区では「それぞれの病院の存続を譲らず、自治体合併協議が物別れに終わった」(関係者)。30区域に分けた広域連携でも病院規模が縮小する地域では反発も予想される。 

 ◇副医院長には看護師 職員の意識覚醒徹底--再建の処方箋 

 自治体病院の経営改善をやり遂げた「再建請負人」の手腕に注目が集まっている。請われた先で実績を上げている、いわば病院経営のプロだ。その実践は自治体病院を再生させる“処方箋(せん)”ともいえる。 

 「職員たちが意識を変えないと病院は変わらない」。川崎市の病院事業管理者の武弘道さん(70)は訴える。鹿児島市や埼玉県で自治体病院経営を立て直し、05年4月から川崎市で改革に取り組む。 

 01年にスカウトされた埼玉県で武さんはまず、4県立病院すべてに看護師の副医院長を置いた。専門分野しか分からない医師と違い、看護師は各診療科、患者や家族にまで目が行き届く。「看護師の意見を尊重しないで、いい医療はできない」。ベッド運用の権限も任せたところ、診療科の縦割りの弊害がなくなり、病床利用率が95%に上る病院も出た。士気はさらに上がり、診療開始を15分繰り上げて午前8時45分にすると患者が増えた。 

 4病院でばらばらだった医薬品の購入を一本化するなどコスト削減の成果もあり、県立病院事業は01年度、27年ぶりに黒字に転換。04年度までの4年間で、計23億8000万円に上った累積赤字を一掃し、18億6000万円の剰余金を計上するまでになった。川崎でも1年目の05年度に9年ぶりの黒字になった。 

 徳島県の病院事業管理者、塩谷泰一さん(59)も「意識改革ではなく、職員の意識覚醒(かくせい)が必要だ」と強調する。「公務員でなければチームワークは生まれない」が持論。公設民営や独法化には反対の立場だ。 

 だが、簡単ではない。病院事業管理者を13年半務めた前任の香川県の坂出市立病院では「意識覚醒が定着するのに10年かかった」。病院の視察ではまず、調理室などを訪れる。日の当たらない部署の職員の動機付けを向上させるためだ。公衆電話の設置場所、レントゲンフィルムの持ち方など、細かな点も一つ一つチェックし、意識覚醒を促した。 

 職員のやる気をそがないよう給与は削らない。徳島県でも、意識覚醒と経費削減で病院事業を10年ぶりに黒字転換させた。塩谷さんは話す。「改革を実行できるかは、院長が自治体の首長と信頼関係が築けるかどうかにかかっている」 

 ◇「破綻前に最良の選択を」 

 川崎市の病院事業管理者の武弘道さんに自治体病院経営のあり方などを聞いた。 

 ――自治体病院の経営悪化の原因は。 

 ◆自治体が一般会計からの繰入金で支援し、なおかつ赤字になっていることを首長や議員、職員が理解していないことが多い。住民も知らされていない。病院に経営者がおらず、役所から来る職員も定期異動で2~3年で帰っていく。自治体病院だからつぶれない、どうにかなるという、役人根性が最大の要因だ。 

 ――勤務医不足が深刻です。 

 ◆過重な宿直などで、くたびれ果てて辞めていく。過重労働を軽減するためには近隣にある複数の病院が連携し、中核となる病院に機能や医師を集約するしかない。救急医療体制の充実、宿直医師数の増加にもつながる。 

 自治体病院が建てられた昭和20~30年代には、地域医療は官が担うしかなかった。民間病院が力を付け、交通網が整備された今、戦後の配置のままでは非効率だ。各市町村で病院を持つ必要はなくなったところが多い。もちろん、離島を抱える沖縄や過疎が進む北海道などの地域には特別な配慮が必要だ。 

 ――規模縮小で困る住民も多く、選挙で選ばれる首長は縮小に踏み切れません。 

 ◆夕張の例で分かったように、自治体が破綻(はたん)するときはあっという間。市民病院は診療所になった。そうなる前に住民もしっかり自覚して、一番いい選択肢を真剣に考える時期に来ている。 

 首長は長期的展望のないまま、在任中は現状維持で乗り切ろうとするが、従来のように繰入金で病院を支援するのは難しく、いずれ病院は持ちこたえられなくなることを認識すべきだ。