2007年12月4日から有識者による近江八幡市立総合医療センターのあり方検討委員会開催



『2007年12月4日から有識者による近江八幡市立総合医療センターのあり方検討委員会開催』 

時流超流・トレンド~近江八幡市の病院、開業1年で経営難 PFI優等生、瀬戸際に 
2007.11.26 日経ビジネス   

 近江商人の町として栄えた滋賀県近江八幡市が揺れている。 
わずか1年前の2006年10月にPFI(民間資金を活用した社会資本整備)方式で開かれた近江八幡市立総合医療センターの経営が悪化し、市の病院事業会計が多額の赤字に喘いでいる。 
近江商人ゆかりの自治体のソロバンを何が狂わせたのか――。近江八幡市の病院事業会計は長く黒字が続き、公立病院経営の模範とされてきた。 
ところが、旧病院を閉鎖し、医療センターが開かれた2006年度には、移転で営業日数が限られたこともあって3億円超の赤字に転落。新しい医療センターが本格的に動き出した2007年度も収支は改善せず、逆に24億円にまで赤字幅が広がる見通しとなっている。 
旧病院の閉鎖に伴う固定資産除却損で赤字が膨らんだ面もある。 
ただ、その影響を除いても赤字幅は10億円を大きく上回る。来年度以降の赤字解消のメドも立っていないのが現状だ。 
収支の悪化を受けて、資金繰りにも問題が出始め、9月以降は一時借入金に頼った経営を続けている。 
もちろん、市の信用があるため、すぐに破綻することはあり得ない。 

ただ、18日に本誌の取材に応じた冨士谷英正市長(医療センター開所後の昨年12月に就任)は「市の支援で何とかなる水準を超えている。 
PFI契約の見直しなどの抜本策を考えなければ、立ち行かなくなる」と危機感を見せる。 
冨士谷市長は12月4日から有識者による「市立総合医療センターのあり方検討委員会」を開き、来年1月までに、窮境に陥った原因を究明し、改善策を検討する。地域医療に詳しく総務省の公立病院改革懇談会の座長も務める長隆氏らが委員に就任する予定だが、解決の道筋が描けるのか予断を許さない状況だ。 

折れてしまった「魔法の杖」 

 PFI方式とは、民間のお金で公共設備を建設、運営し、自治体などがサービスの対価として長期間にわたってお金を支払う仕組みだ。 
民間の知恵を生かすことで、自治体の財政負担軽減とサービスの向上を同時に実現する「魔法の杖」になるはずだった。 
しかし、近江八幡市の病院PFIに限れば、魔法の杖は折れてしまったようだ。 

近江八幡市がPFI方式を導入した経緯は以下の通りだ。旧病院の老朽化により、2001年にPFI方式による病院の移転・新築を決定。病院の建設と維持管理、医療行為を除く周辺業務の運営を民間の事業者に委託し、市が約30年にわたってサービスの対価を払うことを大枠とした。 

病院の根幹である医療部分は市が引き続き担うことにした。支出は長期契約で決まっているが、収入は病院の業績次第という、当初から危うい構図ではあった。 

市は2003年、大林組が100%出資するSPC(特定目的会社)「PFI近江八幡」を事業者に選定。 
事業費が約680億円に及ぶ巨大事業が動き出した。当時は小泉純一郎政権が構造改革を積極的に進めていた時期と重なる。構造改革の医療分野における目玉が病院PFIだった。 
近江八幡市の事例は、高知市などと並び、自治体の費用負担を抑えながら病院の建て替えと運営を進めていくモデルケースとして全国の注目を集めた。 

冨士谷市長によると、市が当初考えていた事業の前提が大きく狂ったわけではないという。市はPFI方式の導入後にも病院経営を成り立たせるために、 
(1)開業医からの紹介率、 
(2)平均入院日数、 
(3)入院患者1人当たりの単価――などを一定水準以上にする必要があると考えていたが、「こうした指標は全国でもトップクラスで、ここで誤算が起きているわけではない」というのだ。 

そうだとすれば、巨額の赤字の原因は、当初の計画そのものにあるということになる。 

収入は増えず支出が激増 市が市議会議員に送った説明資料によると、市が2007年度にSPCに支払う金額は年15億4684万円。 
旧病院時代の2005年度には同じ項目に、6億6631万円しか支払っていなかった。 
つまり、9億円近くもコストが増えたことになる。内訳を見ると、建築物の保守管理費用が2564万円から2億289万円に、設備の保守管理の費用が3880万円から1億3343万円に急増。 

リネンサプライの費用も3221万円から7990万円に膨らんでいる。旧病院に比べ建物と設備が充実したのだから、費用が増えるのはある意味では当然のことだ。 
ただ、コスト増に見合う収入の増加がないため、赤字ばかりが膨らむ構図になっている。 

今後、診療報酬の切り下げ圧力が強まれば、収入はさらに先細る可能性もある。国の医療制度の今後が見通せないにもかかわらず、収入に応じて費用を変動できる仕組みがないことが、市を袋小路に追い込んでいる。 

豪華すぎる建物とサービスが病院経営の重荷になっているとの指摘もある。 
「約400床というベッド数からすれば、30年の長期事業であることを考慮しても、費用がかかりすぎている」(地域医療に詳しい公認会計士)。 

約680億円という事業規模が果たして妥当だったのかは、これから慎重に検討されるべきテーマの1つだ。 
医療センターは5万6000m2の敷地を持つ5階建ての建物。地元の「八幡瓦」を使った外観は高級旅館のようにも見える。中に足を踏み入れれば、木目調の内壁、カーペット、木々に彩られた屋上庭園など、ホテル並みの内装・設備が目に飛び込んでくる。 

病院らしくない豪華設備が病気に苦しむ患者に安らぎを与えていることは事実だが、コスト増の原因でもある。 
冨士谷市長は今後、SPC側と話し合い、市の負担の軽減につながる契約の見直しを求めていく考えだ。ただ、SPCも約30年の長期契約を前提に金融機関から資金を調達して、サービスの提供会社と契約を結んでいる。市の要望に応えられるかは不透明だ。「これは作られた赤字だ」。 

計画を推進した川端五兵衛前市長はこう反論する。市の一般会計からの繰入金が低く抑えられたうえ、PFI事業に否定的な市長の誕生で病院の幹部や従業員の意欲が下がったことが、赤字につながっているというのが前市長の主張だ。「当初は赤字が膨らむのは当然。償却負担が減少するにつれ、徐々に黒字が出るようになるはずだ」と説明する。 

新旧トップの考え方の違いが、長期計画と密接不可分な病院PFIの現場を混乱させている面もある。長期契約が両刃の剣にも 近江八幡市だけが特殊なのではない。病院PFIでは、高知県と高知市の公立病院が統合してできた「高知医療センター」でも混乱が見られる。前院長がSPC側の関係者から家具や家電製品などを受け取っていたとして、収賄罪で起訴された。経営状況についても、近江八幡市と同様、多額の赤字が問題になっている。 

長期契約を特徴とするPFIは当初の計画に甘さがあれば、悪影響が後々まで響いてくる。財政負担を減らすはずのPFIが逆に財政を悪化させるという皮肉な結果を招くこともある。PFIは有効な問題解決策になり得るが、両刃の剣だ。 

市庁舎の建て替えなど、建物の単純な建設・維持管理だけのPFIでは成功例が多い。ただ、病院PFIのように仕組みが複雑になれば、失敗のリスクは高まる。全国的に公立病院の経営が苦しくなる中、PFI方式を検討する自治体は今でも多い。そうした自治体が近江八幡市の轍を踏まないと言い切ることはできないだろう。近江八幡市の病院PFIの混迷が示唆するものは、魔法の杖などどこにもないというごく当たり前の現実である。