リポート・・迷走する「病院再生」運営難の安房医師会病院


リポート・・迷走する「病院再生」 運営難の安房医師会病院 /千葉県 
2007.11.18 朝日新聞  
  
経営難に陥った安房医師会病院を運営する安房医師会(宮川準会長)が、再建のために経営主体の変更を急ぐ経営改革委員会(長隆委員長)と地域住民への十分な説明を求める地元館山市などの間で揺れている。 
先に医師会理事会で承認された総会開催の日程が一日でひっくり返るなど、再建の行方が定まらない。半年前まで2次救急医療も担ってきた地域の重要な拠点病院はどうなるのか。「迷走」の背景を探った。(福島五夫) 


 ◆経営主体変更 経営委「速やかに移行を」 自治体「まず情報提供を」 

 13日。病院を運営する安房医師会は理事会で、病院の経営主体の変更を求める経営改革委員会の答申を全会一致で承認した。 

 この時点で医師会側が描いた今後のシナリオはこうだ。 

 27日に総会を開いて答申を決議し、翌日には新しい病院の運営主体を公募し、12月2日に締め切る。応募があれば宮川会長や長委員長らでつくる選定委員会で審査し、早ければ、同月10日には契約に持ち込みたい--。 

 しかし、シナリオは一晩で崩れた。 

 14日、宮川会長らが非公式に永井一浩・館山副市長を訪問したところ、「安房3市1町と県などと密に連絡を取り合って進めるべきだ」と総会開催に待ったがかかった。 

 一刻も早く次の経営主体を見つけて再建を急ぎたい経営改革委と、地元の理解が必要として慎重姿勢の周辺自治体。両者の考えのずれが浮かび上がった格好だ。 

 安房医師会病院は、自己資本が9億4千万円。残りを館山市をはじめとする周辺市町村や県、国などが22億5千万円を補助。土地は館山市が無償で貸与してきた。 

 当初は経営が順調で、借入金も年約1億円のペースで返済できた。しかし、04年度以降、赤字額が毎年増え続け、06年度の単年度決算では3億円近い赤字を計上した。 

 昨年から看護師と准看護師の辞職が相次いだ。看護師不足から昨年10月、3病棟のうち1病棟を閉鎖するなど、07年度も大幅な赤字が避けられない情勢だ。 

 しかも、借入金をめぐり、これまで医師会役員が連帯保証人となってきたが、押印を拒む役員も出てきている。 


 ◆なぜ急ぐ 医師・看護師、流出の前に 

 「内部での経営改革は困難だ」 

 宮川会長らはそう判断して、再建の道を第三者に委ねることにした。 

 白羽の矢が立ったのは、夕張市立病院の再建などに腕をふるった長氏(東日本税理士法人代表社員)だった。 

 9月。長氏を委員長にして外部委員5人と宮川会長でつくる「安房医師会病院経営改革委員会」が立ち上がった。 

 委員会は関係者に対する聞き取り調査などをもとに「経営主体を早急に変更すべきだ」との答申案をまとめ、10日の第2回経営改革委員会で医師会に提出した。 

 「現体制では責任と権限が不明確で、合議制のため意思決定が遅い」 

 この点を一番問題にして答申には、厳しい言葉が並んだ。意思決定が遅れて様々な課題や問題に適切に対処出来なかったと指摘し、「非協力的な医師会員の存在が協力的な会員のやる気をそいでいる」と背景にある医師会内部の構造的な問題にも踏み込んだ。 

 一方、答申は病院の最大の財産である医師と看護師の動揺を避けるために、「早期の経営主体の変更」を提言した。人材が去ってしまうようでは、公募したところで、望ましい経営主体の応募が期待できないという事情がある。 

 病院経営の実績がある医療機関が引き受けやすい状態に同病院の経営などを維持しておくことが必要だった。 

 10日の第2回委員会。委員の1人の近藤俊之・県病院局事業管理者は「スムーズに短期間で経営主体を変更することが病院再生のカギだ」と強調した。 

 答申があえて、総会決議から契約までの具体的な日程に踏み込んだのはそうした背景があった。 


 ◆なぜ慎重 補助金出し、突然危機とは 

 理事会から2日たった15日のこと。 

 宮川会長は、館山市、南房総市、鋸南町のトップを駆け足で訪ねた。 

 「住民に不安を与えたことに遺憾の意を表明し、行政側との意思疎通を密にしてもらいたい」 

 金丸謙一・館山市長がそう求めると、宮川会長は、病院の経営状況などに関する情報提供が不十分だったと謝罪した。 

 医師会側が行政に気を使う最大の理由は、病院新築時に県と市町村から計20億円近い補助金(国を含めて22億5千万円)を受けているからだ。 

 補助金の対象は、公益性が高いことが条件で、本来、地域医療を担う公立病院などに限られる。医師会立ではあるが、同病院は公益性が高いとみなされて補助金を受けることができた。ただし、病院の経営が不能となった場合には返還が義務づけられており、医師会はそれだけは避けたい。 


 最大の債権者である安房郡市広域市町村圏事務組合(組合長、金丸館山市長)は11月30日、答申が提起した問題点などを検討するという。 

 金丸市長は「これまで心配ないと聞かされてきたので、危機的状況にあるといきなり聞かされて驚いている。地域医療が守られるよう慎重に対処する必要がある」。 

 これに対して、長委員長は「公募前だが、私の所には内々の打診が2件来た。時間がかかりすぎて病院が再生不能に陥ってしまっては何にもならない」と自治体の慎重な姿勢に首をかしげた。 

 「総会は12月上旬」というだけで、その後の予定は立たないでいる。 


 ◇キーワード 

 <安房医師会病院> 1964年、県内で唯一の医師会立病院として設立された。救急医療が24時間できる病院が欲しいという地元の要望に応える形で、2000年3月に総額47億9千万円かけて地上6階地下1階の新しい建物が完成。同年6月、新病院での診療が始まった。現在の病床数は149床で、内科や消化器科、外科、小児科など12科を抱える。長年にわたって館山市を中心にした2市1町の拠点病院としての役割を担ってきた。