PFIならすべてうまくいくはずという幻想・・



『PFIならすべてうまくいくはずという幻想・・』 


記者の目:高知医療センター汚職とPFI=近藤諭(高知支局) 
2007.11.09毎日新聞   
 ◇幻想捨て、官も適切関与を--第2公共事業ではない 

 高知医療センター(高知市池)の瀬戸山元一・前院長(63)の逮捕、起訴に発展した汚職事件は、自治体病院の建設と運営を民間に一括委託する全国初の病院PFIが舞台となった。県や高知市がPFIを導入した際の議論と手法が中途半端だったことが事件の背景にある。PFIは決して「第2の公共事業」ではない。行政側の意識改革も急務だ。 

 PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)は自治体の財政難を背景に、公共施設などの建設や維持管理、運営などで民間の資金やノウハウを活用し自治体の負担を軽減する目的で、「小泉改革」路線の一環として導入された。病院の他にも道路建設や水族館、刑務所などの公共施設で採用され、内閣府によると全国で約290件(10月現在)の事業で導入または検討されており、全体で2兆2000億円以上の事業規模となっている。 

 高知県・高知市病院組合(現・病院企業団)が、県立中央病院と高知市民病院を統合した高知医療センターにPFIを導入した理由も同様だ。統合前の両病院の累積損失は合わせて100億円を超えていた。 

 白羽の矢が立ったのが瀬戸山被告だった。小中学校の6年間を高知市で過ごし、京都府舞鶴市民病院、島根県立中央病院再生などの実績も申し分なかった。橋本大二郎知事らに「三顧の礼」で迎えられる形で、00年12月ごろの知事室での面談では、PFIの費用面でのメリットなどを熱く説いた。知事らは「全国初」といった言葉にも魅力を感じたのだろう。すぐに導入が決まった。 

 ところが、病院の開院時期(05年3月)は決定しているため、スケジュールは逆算で埋まっていった。「走りながらPFIの勉強をしていた」と元病院企業団職員が語るように、PFIとはどういうものか、メリットやデメリットは何なのか。検討する時間は十分ではなかった。 

 通常、PFIは、設計・建設・維持管理・運営といった業務を一括で発注し、性能を満たせば細かな手法は問わないという「性能発注型」を採用する。しかし、高知医療センターの場合、PFI導入時、既に病院本館の実施設計が出来上がっており、民間が施設面でノウハウを生かす余地はあまり残されていなかった。 

 そんな中、02年6月には瀬戸山被告が、PFI事業に参入を希望している業者とアメリカに視察旅行をしていたことが発覚。それ以降、瀬戸山被告の権限の多くが外され、唯一、力を発揮できる場面が設計変更になっていった。既に出来上がっている設計図に対し、医療面から改善点を挙げて変更を求めるのだ。 

 元々、組合側も瀬戸山被告の理想を病院建設に組み込むことは歓迎していた。だが、瀬戸山被告の要求は変更前より費用がかさむ増額変更ばかり。このため、事業委託を受けた企業でつくる特定目的会社(SPC)「高知医療ピーエフアイ」は、予算枠内で収めるため増額の変更要求を控えてもらい、減額の変更を認めてもらうため瀬戸山被告の機嫌を取る必要があった。

 SPCの中核企業のオリックス・リアルエステート(現オリックス不動産)元社員2人が懐柔に当たり、費用圧縮面で有利な取り計らいを受け、その見返りとしてプラズマテレビなど電化製品や高級家具など計30点(約300万円相当)を贈り、汚職へと発展した。 

 一方、PFI導入で、施設整備費などで約50億円が縮減され、SPCとの契約期間(30年)では180億円が削減されるとされているが、地元の要望を受け、SPCからは、薬品などの材料費の半分以上を地元で調達するという「確約書」が提出されている。SPC幹部は「県外からの一括調達なら安くできるのに、ほぼすべてを県内で調達せざるを得ない状況」と語り、いらだちも見え隠れする。PFIは「ばらまき型」で非効率的な公共事業に代わる新しい手法で、決して「第2の公共事業」ではないはずだ。 

 いうまでもなく、高知医療センターへのPFI導入を否定するものではない。県の医療の中核を担うべく高度救急医療に特化した病院に生まれ変わったことで、それまでは助からなかった命を救えるようになり、県外に運ばざるを得なかった症状の患者を県内で治療できるようにもなった。 

 今回の汚職事件が残した教訓は、「PFIならすべてうまくいくはず」という幻想を捨てPFI、官民が信頼関係を構築したうえで、民の実力発揮を促すように官が適切な関与を取り戻すことの必要性なのだ。