深刻な危機に直面している医療、福祉をテーマにした医療ルネサンス北海道フォーラムが財政破綻した夕張市で開かれた


医療ルネサンス北海道フォーラムin夕張・特集=北海道 

2007.10.21読売新聞   
 ◆元気で長生きするために 地域の医療・福祉、改善は意識向上から 

 深刻な危機に直面している医療、福祉をテーマにした医療ルネサンス北海道フォーラムが、財政破たんした夕張市で開かれた。市立病院の閉鎖の代わりに地域医療を担う夕張医療センターの村上智彦理事長の基調講演や、パネル討論が行われた。病気の予防・治療を取り上げてきたフォーラムにとって、異例のテーマだったが、財政危機に陥っている周辺自治体からも含めて約150人が参加した。村上理事長らは、治療より予防医療、自らの健康を守る意識の重要さを強調した。 

 《基調講演》 

 ■予防こそ一番の薬 

 ◇医療法人財団夕張希望の杜 夕張医療センター理事長 村上智彦(むらかみ・ともひこ)さん 

 ◆生活変え、医療費減らそう 

 私は、1999年(平成11年)から7年間、檜山・旧瀬棚町(現せたな町)の町医療センターに勤務しました。センターでは、肺炎予防ワクチンの投与など予防医療や、住民の健康意識を高めることに力を注ぎました。 

 肺炎予防のワクチンは、有効性が知られていながら患者の自己負担が大きいため普及しませんでした。瀬棚では、公費助成を全国で初めて導入しました。 

 全国1位だった高齢者医療費は、187位に改善されました。ワクチンの公費助成も今では56市町村に拡大しました。 

 瀬棚の後、新潟県の湯沢町総合医療センターに勤務しました。センターは、医療、保健、福祉の一体化施設で、官が建て、民間が運営しています。民間運営には競争原理が働く、サービスが向上するなどの利点があります。30、40歳代の夫婦が人間ドックにそろって受診していることに驚きました。湯沢町は、医療費が全国2番目の低さですが、自分で健康を守る意識が高いのです。 

 夕張医療センターが2人の医師を公募したところ、7人の応募がありました。医師不足が叫ばれていますが、どういう医療をするのかがはっきりしていれば、医師は来ます。 

 夕張での医療崩壊の原因は、「行政の不作為」が挙げられます。場当たり的な病院運営、医療従事者との対話不足、保健・医療・福祉の病院への丸投げなどです。 

 住民側にも原因がありました。病院、医師、行政に任せっきり、医療機関があって当たり前、救急車はタクシー代わり、コンビニ感覚で病院を利用する。病院側にも、公務員体質、住民を見ていない仕事、医師に薄く他の職員に厚い給与体系などが指摘されます。 

 2004年度の高齢者1人あたり医療費は、全国平均78万4558円に対し、夕張は96万5290円で全国で56位の高額さです。 

 医療費のほとんどは、生活習慣病にかかわるものですから、生活習慣を変えれば安くなります。食事と運動に気を配り、検診、予防接種、禁煙などで健康を守り、病気を予防しましょう。 

 夕張は、炭鉱から観光の町を目指しましたが、「健康」+「環境」を提案したい。予防医療の充実で健康な高齢者を増して労働力を確保すれば、医療費負担や介護保険料が安くなります。自然環境やメロンといった農産物にも恵まれています。地域の良さを認識し、自分たちでアイデアを出すとともに、外部からもアイデアをもらいましょう。 

 夕張が将来、全国のモデルになるよう、知恵と人材で再生していきたいものです。 


 《パネル討論》 

 ◎パネリスト 

 横川良孝(よこかわ・よしたか)さん 夕張市社会福祉協議会係長 

 川辺弘美(かわべ・ひろみ)さん 芦別慈恵園 施設福祉課長・管理栄養士 

 村上智彦さん 

 ◎コーディネーター 

 日沖充(ひおき・みつる)さん 北海道医療新聞社介護新聞編集部長 


 ◆夕張社協、サービス維持へ知恵結集 

 日沖 財政破たんで、社会福祉協議会(社協)の活動も大きな影響を受けたと思います。どう対応しているのか、他地域社協の注目も集めています。 

 横川 地域の行政窓口や生活会館などの施設の運営費がすべてゼロ査定になりました。 

 夕張市が年間1200万円を投入していた老人福祉会館も今年4月から予算がありません。会館は、高齢者の生きがい活動の拠点で、年間延べ約3万人の利用があり、市としては残して社協に運営を引き受けてくださいということでした。 

 私たちにとっては予想以上の衝撃で、代わりの案がなく、住民生活の最低限の支援策も示されず、「一方的だ」との不満が高齢者から噴出しました。 

 こうした現状を打破するため、「安心ゆうばり、みんなでつくるまちづくり事業」構想を掲げました。具体的には、医療機関への移送サービス、外出時の移動支援といったアクセスの確保、老人福祉会館の存続、人工透析患者への緊急支援体制の確保などです。 

 夕張には、冬場はタクシーも行けない、バス停留所にも来られないといった事例もあります。移送サービスは、民放のチャリティー番組から車両の寄贈を受けて始めました。在宅医療サービスの充実もあって、救急出動が年間100件減ったと聞いています。 

 事業の一つとして、7月から市内4地区で住民参加型の「地区サロン」を始めました。役所や社協などからの書類内容の読み聞かせ等に主に応じる場です。 

 破たんによって、住民が知恵を結集する必要があります。自立ということが呼びかけられていますが、自立に伴い、増える負担に住民が耐えられるか不安があります。住民に支えられている社協自体も大きな課題を抱えています。挑戦は始まったばかりです。 

 ◆芦別慈恵園、手作り料理で食事楽しく 

 日沖 夕張と同じく人口減の芦別市で、老人ホームなどで高齢者支援に取り組んでいる現状を話していただきます。 

 川辺 芦別の福祉サービスは、老人保健施設、特別養護老人ホーム、ケアハウスの高齢者施設などのほか、居宅介護支援、通所リハビリ、グループホーム事業所、生きがいデイサービス、配食サービスなどがあります。 

 私が勤める芦別慈恵園は、優しい笑顔で心は豊かに言葉は和やかにという「和顔愛語」を基本理念にしています。 

 食事は、最後の時まで口からおいしく食べる、生活の中の楽しみとなるを目標に取り組んでいます。まず、食事環境の工夫。ユニットクッキングは、朝7時からユニットで食事を作り、起きた方から食事をとります。一斉の食事ではないので、ゆっくり食べることができます。ユニットの雰囲気など状況を知ることもできます。 

 複式献立も取り入れています。家庭で言えば行事食で、調理職員がユニット利用者から食べたいものを聞いて献立を立て、作ります。利用者も味見するなど調理を手伝うことで喫食率が高まる効果もありました。 

 食事の形態も工夫しています。のみこみの悪い方や、かめない方には、見た目には普通食と同じようにしたやわらか食などで食欲がわくようにしています。一例を挙げると、卵黄、植物油、絞り豆腐といったやわらかい素材を入れて蒸した後、バーナーで焼き目を入れます。焼いた感覚のハンバーグができます。演出も大事なのです。 

 買い物に行けない、自分で作れない、でも家で過ごしたいという方に、配食サービスを実施しています。1食680円の弁当を月曜日から金曜日の午後4時30分から配達しています。配達の際、メニューの説明をしたり、お茶を入れたりするようにしています。 

 慈恵園では、利用者が生活していく中で最も大切なのが食事と位置づけています。食事は委託という施設が多いのですが、慈恵園では直営です。ほとんどが手作りで、地場産を使用しています。 

 ◆減塩食守ろう/病院より運動/行政は支援を 

 日沖 一人暮らしや高齢者だけの世帯が多くなってきています。食事に関して、そうした方々への提案があれば……。 

 川辺 味付けが濃いようです。野菜や果物が不足しがちなので、一日に両手いっぱい食べるようにしましょう。 

 日沖 健康づくり、病気予防のための方策は。 

 村上 健康講話や、こうしたフォーラムを利用して、病院より食事、運動が大切だと言う意識の普及に努めたい。 

 日沖 医療と福祉の連携を深めるにはどうすればいいのでしょうか。 

 横川 例えば、地区サロンで、高血圧や肥満を住民が話題にする。こうしたことを通して、(医療や福祉に)関心を持ってもらうことが最も大切だと思います。 

 村上 連携というと、各パートが会議を開くイメージですが、私にはまったくその感覚はありません。地域でいろいろ活動していると、自然に連携に行き着きます。催しでは、倒れる人に備えて、私たちがバックアップするなど、いろいろな職種の人たちが自然に連携するものです。 

 会場 福祉施設と家族、地域住民がかかわる具体的ケースを教えてください。 

 川辺 慈恵園のサテライト型居住施設には、地域交流スペースを設け、新聞や図書を備えています。地域の人がやってきて、慈恵園の人との話し合う場になっています。家族にとっても、そうした施設が地域にあることによって、行きやすくなっています。 

 会場 旧瀬棚町で医療費削減を実現させた原因は何でしょうか。 

 村上 一番の原因は、重症の脳血管障害の激減です。血圧測定、減塩や、予防接種の普及に保健師たちが頑張ってくれました。肺炎と脳卒中の激減で、時間外受診が年間140件から50~60件に減りました。 

 会場 お金がない中で、行政の仕事は何でしょうか。 

 横川 地域住民の活動拠点などを、町内会や住民の負担で維持しています。今後、いつまで負担に耐えられるのか心配です。 

 村上先生が言うように今後の夕張は、医療、福祉、環境に向かわなければならないとすれば、それらの社会資本の整備や、整備するための制度づくりが行政の課題になるのでは、と思っています。 

 村上 夢がないと元気が出ません。皆さんも堂々と夢を持ち、町を盛り上げましょう。そうすれば、北海道が元気になり、本州の人たちが移り住みたくなります。 


 主催 北海道国民健康保険団体連合会、読売新聞北海道支社 

 後援 北海道、夕張市、北海道医師会、北海道栄養士会、北海道理学療法士会、(財)北海道生涯学習協会、社会福祉法人夕張市社会福祉協議会、北海道医療新聞社