飯田さよみ・泉大津市立病院長がパネリストで講演・・・女性医師には出産・育児との両立が大きな壁となっています・・・


『飯田さよみ・泉大津市立病院長  パネリストで講演・・・女性医師には、出産・育児との両立が大きな壁となっています。学校の先生のように、休暇中には代わりの医師が来られるような仕組みがあれば、女性医師も勤務し続けることができるし、マンパワーとして生かすこともできます。今後の問題としてぜひ取り組んでいただきたい・・・』 




特集:医療崩壊の危機を考える 公開討論会・医療崩壊は防げるか? 
2007.10.07毎日新聞   
 ◇安全確保へ、医療費拡大を 

 地方の病院だけでなく都市部でも、常勤医不足から休診せざるを得ない診療科が続出し、日本の医療が崩壊しかけている。第29回大阪の医療と福祉を考える公開討論会(大阪府医師会主催、大阪府、大阪市、毎日新聞社、毎日放送、大阪府地域医療推進協議会後援)が9月15日、「医療崩壊は防げるか?」をテーマに、大阪市天王寺区の大阪府医師会館で開かれた。主催者としてあいさつに立った酒井國男・大阪府医師会会長は「日本の医療費は患者さんの自己負担額こそ増えているものの、国の支出する額としては先進国の中で最も低額。医療費の低さと医師不足のため、実は医療崩壊はすでに始まっています。誰もが格差なく安心・安全な医療を受けられるよう、この医療崩壊をどうすれば食い止められるのか、医師と患者が一緒に考え、大きな声を上げていきましょう」と呼び掛けた。パネリストには、医療提供側の立場から飯田さよみ・泉大津市立病院長、中島康夫・大阪赤十字病院肝胆膵外科部長、マスコミ・府民の立場から砂間裕之・毎日新聞大阪本社科学環境部副部長、コメンテーターとして茂松茂人・大阪府医師会理事が出席。毎日放送の加藤康裕氏の司会で意見を交換した。 

 ◇医療は社会保障、抑制より再生を 

 ――病院と診療所は、具体的にどのような連携を行っているのか。 

 中島 例えば、がんの治療のフォローアップが考えられます。抗がん剤の投与は外来で行う割合が高いので、これを診療所で対応していただけるよう、少しずつ進めている最中です。開業医の先生方には抗がん剤の事故に対する不安があるのですが、われわれと勉強していただいて敷居を低くしていきたい。フォローアップは診療所にお願いして、病院はできるだけ手術に専念できるような体制をとりつつあります。 

 ――がんといえば大病なので、手術した大病院でフォローアップもしてもらいたいという気持ちがあるのでは? 

 砂間 患者にとっては、大病院なら何か起きてもすぐに対応してくれるという安心感があります。ただ、診療所は継続的に診てもらえるというメリットもあるので、そういう面ではすみ分けをしていった方がいいでしょうね。 

 茂松 手術後、退院された時に精神的な支えになるのはかかりつけ医です。しかし、診療所にはできないこともあるので、その場合にはすぐに大病院で診てもらえるよう、診療所と病院の連携が必要ですね。国も連携を推進する方向なので、われわれもその方針に沿って、しっかりとシステム作りをしなければなりません。 

 ――勤務医不足の問題について、医師の数を増やすことは確かに有効だろうが、勤務状況が過酷だと結局は勤務医になることを避けるのではないか。 

 砂間 「医療クライシス」のキャンペーンでも取り上げましたが、工夫できることはいくつかあります。一つは女性医師の力の活用です。現在、国家試験の合格者の3割、全体でも医師の16%は女性です。しかし、過酷な勤務と出産・育児のため辞める女性医師もいます。そこで、こうした女性医師の力を活用するために、ワークシェアリングで2人1組で診療にあたっているケースもあります。例えば、週3日ずつ1日交代で勤務するという形です。 

 もう一つは、病院の集約化、機能の明確化です。例えば産婦人科なら、ある病院は出産を、もう一方は婦人科を担当するというように、近隣の病院で機能を分けていくのです。これらを組み合わせれば勤務状況も少しは良くなるのではと思いますが、やはり抜本的な解決には医師の数を増やすことが必要でしょう。 

 飯田 女性医師には、出産・育児との両立が大きな壁となっています。学校の先生のように、休暇中には代わりの医師が来られるような仕組みがあれば、女性医師も勤務し続けることができるし、マンパワーとして生かすこともできます。今後の問題としてぜひ取り組んでいただきたいですね。 

 ◇進めたい、病院と診療所の連携--泉大津市立病院長・飯田さよみさん 

 人口90万人の泉州地区では、病院勤務医不足が発端となり、一つの自治体病院が3月に閉院しました。現在六つある自治体病院の総病床数は1724床ですが、実際の稼働病床数は1500床以下に減っています。産婦人科と小児科の勤務医不足に始まり、今、医療現場では内科勤務医不足が深刻になっています。 

 泉大津市立病院でも、内科医師はぎりぎりの数です。昨年度に近隣病院が内科の救急診療を中止したことにより、内科救急患者数が増加し、内科当直医が疲労困憊(こんぱい)の状態になりました。こうした状況は泉州地区に限ったことではありません。今年7月、全国自治体病院協議会近畿・東海地方会議で、医師不足の状況等に関するアンケート調査結果が報告されました。回答した170病院のうち116病院が医師不足でした。この116病院中81病院が重症患者を担当する二次救急病院であり、救急医療が大ピンチです。 

 医療技術は年々進歩し、病院では新たな医療機器設備や医師・看護師などの医療専門職員の研修が必要です。また、医療の安全を図り、感染防止対策を取っていくためには、マンパワーが多く要求されます。しかし、平成18年度の診療報酬は3・16%ものマイナス改定となりました。これは新しい医療機器の購入はせずに、医師に安い給与での勤務を強いながら、社会から要求される医療の質を維持することを要請しているのと同じです。このような不可能を可能にすることはできません。全国で勤務医が離職していくのも、精根尽き果てたためなのです。その結果、病院のマンパワーが減り、医療環境がさらに悪化し、医療崩壊へ進むという負の連鎖が生まれます。 

 こうした医療崩壊を防ぐために進めたいのは、病院と診療所の連携です。病院には高度な医療機器設備があり、また複数の医師の目で診ることができるという特性がある一方、診療所には普段から診ている医師が総合的に判断することができるという特性があります。精密検査や入院治療が必要な場合は病院が担当し、病状が安定した状態や慢性疾患は診療所が担当するなど、病診連携を推進していくことが必要です。 

 ◇マンパワーの増強は不可欠--大阪赤十字病院肝胆膵外科部長・中島康夫さん 

 都市部の中核病院である当院の外科を例に取ると、平成19年7月の外科医師の時間外労働は1人あたり23~165時間、平均75・6時間でした。165時間の時間外労働というと、平日は夜10時過ぎまで、すべての休日に5時間以上勤務したということになります。 

 救急指定病院のため、当直中の緊急手術にも対応しなければなりません。過酷な当直勤務をこなし、緊急手術を行った当直医師が睡眠不足のまま、翌日の予定手術に加わっているのが現状です。これはおそらく日本中のほとんどの病院で行われていることでしょう。当直翌日の時間外労働は平均6時間を超えています。こうした勤務状況の厳しさ、肉体的・精神的疲労の激しさに、働き盛りの医師が病院を退職し、開業医となっていくのです。 

 医師不足は麻酔科ではさらに深刻です。麻酔科医不足は全国的にも問題となっており、当院でも麻酔科医の大量退職のため、当直麻酔科医がいない状態です。これは、外科医と手術室担当看護師が当直していても、全身麻酔を要する緊急手術ができなくなっていることを意味します。麻酔科医の当直どころか、オンコール(呼び出し)体制さえ難しいのが現状なのです。 

 こうした医療崩壊を食い止めるために、まず導入したいのが看護師のような交代制勤務です。当院でも救急部で導入し、効果もあったのですが、人員不足のため当直体制に戻らざるを得ませんでした。 

 もう一つ考えたいのは、大阪府下に夜間・休日のみフル稼働できる病院をつくることです。昼間働く医師と夜間に働く医師は、別人でなければ崩壊は止められません。 

 人命を預かる仕事なのですから、30時間を超える連続勤務は絶対に避けるべきです。例えば、極度の睡眠不足状態の機長が操縦する飛行機に安心して乗ることができるでしょうか。同様に、体調不良の外科医の手術は受けたくないはずです。 

 医療崩壊を防ぐためにも、マンパワーの増強は不可欠です。そのためには、先進諸外国並みの医療費を確保することが必要だと考えます。 

 ◇患者に過重労働のツケの危険性--毎日新聞大阪本社科学環境部副部長・砂間裕之さん 

 毎日新聞は、昨年10月に発覚した奈良県・町立大淀病院の妊婦死亡問題を受け、今年1月から医療崩壊をテーマにしたキャンペーン「医療クライシス」を始めました。取材を通して分かったことは、勤務医の壮絶なまでの過重労働です。厚生労働省の調査によると、平均的な医師でも月90時間以上は時間外労働をしており、過労死認定基準の目安である「月80時間の時間外労働」を超えています。過酷な労働環境は注意力の低下を引き起こし、いつ医療事故が起きるか分かりません。つけが患者に回る可能性があるのです。 

 勤務医の不満は、身体的な疲弊に限りません。開業医に比べて報酬が少ないという経済的不遇、医療事故をめぐる訴訟の増加や刑事責任追及、マスコミ報道などの精神的圧迫もあります。勤務医はぼろぼろになって辞めていきます。 

 勤務医の減少は病院の閉院、診療科の休止・縮小にもつながります。大阪府南部の公立忠岡病院では医師確保のめどが立たず、今年3月閉院に追い込まれました。身近な病院がなくなることは、高齢患者や重い病気を持った人をはじめ、多くの患者にとって負担が重くなります。必要なことは、医療費と医師数の増加です。日本では、公共事業に85兆円もの税金が投入されていますが、医療費は三十数兆円にすぎません。また医師数も、OECD(経済協力開発機構)のデータによると、人口1000人あたり平均3・1人に対し、日本は2人だけです。 

 イギリスはサッチャー政権時、医療費抑制政策を始めましたが、その結果は医療崩壊でした。90年代にはがんの患者が手術待ちの間に亡くなり、優秀な医師は海外を目指すようになりました。ブレア・前政権は医師数を増やすなど政策を転換し、現在再生を図っている段階です。 

 イギリスの苦い経験から学び、医療費と医師数を他の先進国並みにし、医師の士気を低下させない対策が必要です。それが、結局は私たち患者のためにもなるのです。医療側と手を携えて、医療をもう一度考えましょう。 

 ◇「医療費亡国論」で患者負担増加--大阪府医師会理事・茂松茂人さん=コメンテーター

 医療の現場では、今まさに「医療崩壊」が叫ばれ、患者さんが望む安心で安全な医療が提供できない状態が生じています。医療崩壊の根本的な原因である医療費抑制策は、1982年に厚生省(当時)保険局長が提案した「医療費亡国論」がベースとなっています。これは、増加の一途をたどる医療費が国家財政を圧迫し、将来的には国を滅ぼすという考え方です。以後、患者負担は増えているにもかかわらず、国の支出する医療費は抑制され続けています。しかも、国は医療を社会保障ではなく、アメリカのようにサービス産業ととらえています。このままでは、貧富の差で受けられる医療にも格差がついてしまうことになりかねません。 

 皆が同じように医療を受け、健康な人が増えれば、経済を発展させ、社会を活性化することができます。私たち医師も懸命の努力を行ってはいますが、やはり限界があります。医療から国を立て直すために、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。