文藝春秋で特集 最高の医療 ルポ医療崩壊 病院を壊すのは誰か 医師が逃げ、診療科は閉鎖。再生への処方箋は

 文藝春秋


特集
最高の医療 ルポ医療崩壊
病院を壊すのは誰だ
医師が逃げ、診療科は閉鎖。再生への処方箋は

奥野修司(ジャーナリスト)

自治体病院の二重苦
 それにしても、医師不足で問題になっている病院のほとんどが自治体病院というのはどういうことだろう。総務省の「公立病院改革懇談会」座長も務める、公認会計士の長 隆(おさ たかし)氏によれば、「全国の病院のうち、自治体病院の割合は11・8%ですが、僻地医療では71.3%を占めています。自治体病院が駄目になるということは、日本の地域医療が崩壊するということです」
 地域医療の要は救急医療や時間外診察である。これらは採算がとれない分野だから、簡単には民営化できない。地域にとってライフラインにも相当する自治体病院が、なぜ次々と壊れていくのか。根本的な原因はいうまでもなく医師不足だが医師が去っていくのは病院に統治能力がないからだと長 氏は言う。
「自治体から医療現場にはまったく素人の人間がやってきて、最高責任者になる。そういうトップが役人の発想で権限を振り回し、責任だけは負わない。だから赤字を垂れ流しても平気でいる。よくならないのは当然です」
 実際、ある自治体病院の院長は、「院長なんて、雇われマダムみたいなもんです」と声をひそめて言った。
「一所懸命働いても働くなくても、給料は同じ。いかに超過勤務をしたかで給料に差が出るんです。つまり、評価の基準が仕事の内容じゃなく、時間だけなんですよ。バカくさ。だから3年も4年もいたいという医者いないんです。
院長なんて権限がないですからね。たとえば非協力的なスタッフを異動させようとすると、組合が反対してつぶす。組合が消滅しないかぎりだめです連中は年功序列で給料が上がっていくから、勉強もしない。まあ、経営母体が変わらないと病院は変わらないでしょうね」。
 官僚体質のおかげで、「年収1000万円の職員はザラ、下手すると過重労働に喘ぐ医師並みの高所得で、仕事はずっと少ない」(伊関氏)、「准看護師で年俸1200万円、掃除のおばさんが退職金5000万円」(長氏)といった民間では考えられないことが起きている。医療収益に対する人件費の割合が高く、83%(福岡県の県立5病院)に達するところもあるというから、なんのための病院かと疑いたくなる。

再生を模索して
 一体この国の医療はどうなっていくのだろう。ビジョンを持たない指導者を戴いた日本は、本当に泥船に乗ってしまったのだろうか。医療崩壊の現場を数多く見てきた長(おさ)氏は、怒りを込めて言った。
「教育と医療が崩壊したら、その国家は崩壊するといわれます。すでに教育が崩壊しているのに、このうえ医療が崩壊したら、ほんとに日本は駄目な国になってしまいます。」