公立病院改革懇談会・・地域ごとの特性に配慮すべきだという意見が多く出たようだ。

『公立病院改革懇談会・・地域ごとの特性に配慮すべきだという意見が多く出たようだ。最近の厚生労働省や閣議が決定する方針は、議論で出た重要な意見を無視して、既定路線と思われる方針を中心にまとめてしまうことが多い。今回は是非、懇談会で出た意見を尊重して、実際の医療に活かしてほしい。 

”がんになっても、あわてない”(朝日新聞社)を出版された、   平方 眞先生, 諏訪中央病院緩和ケア科部長のご意見を紹介いたします』 


・・公立病院の経営で改善可能な部分は多少ある。しかし例えば私が働いている諏訪中央病院を例に取ると次に挙げる挙げたような工夫はほぼすべてやっている 
それなのに医業収支が黒字にならなくなってきた。 

さらに効率化を進めろというなら、何をどこまでやったらいいのか、見通しが立たない・・・

値段が同じであれば、スタッフが専門的な仕事に専念できる都会の大きな病院の方が、効率良く仕事ができて、収入も確保しやすい。 

一人の職員がいくつもの仕事を掛け持ちしながら地域医療を守っている病院の方が、仕事は大変でも収入は得にくい。 

頑張ってきた地方の病院がバタバタ倒れるのを見殺しにしている今の政府の方針は、地方に住む人の安全と安心をも脅かしている・・・・こういう声に懇談会は真剣に 耳を傾けご期待にこたえなければならない!! 


「公立病院の行方」  ニュースへコメント 
 「公立病院改革懇談会」(座長:長隆公認会計士)の初会合が開かれた。同じ公立病院でも地域によって役割も事情も大きく異なる。状況に合わせた対応が必要だという意見が多く出されている。 
記事は次のとおり。 


公立病院改革:懇談会が初会合 経営合理化などを検討 
毎日新聞 2007年7月23日 

 経営が悪化している公立病院の合理化やネットワーク化などを検討する「公立病院改革懇談会」(座長=長隆・公認会計士)の初会合が23日、東京都内で開かれた。年内に策定するガイドラインについて「離島や中山間地の病院は、民間並みの効率化は難しい」との意見や、へき地の病院についても別途検討すべきだとの意見がそれぞれ大勢を占めた。 
 県や市町村が運営する自治体病院は1060。全国の病院の約11・8%だが、病床数は全国の15%にのぼる。このうち、へき地医療は自治体病院が約7割(174病院)を占め、多くの委員から「都会の自治体病院とは仕分けすべきだ」との意見が出た。8月下旬に開く次回に全国自治体病院協議会の関係者などにヒアリングし、ガイドライン策定に向けた具体的な論議に入る。 
 懇談会は菅義偉総務相の指示で設置されたもので、経営効率化、再編・ネットワーク化、経営形態の見直し--の三つの視点から年内に数値目標を盛り込んだガイドラインを決定する。これを受け同省は全国の自治体に対し、来年度中にこれに基づく改革プランを作成するよう求める。【七井辰男】 
(記事ここまで) 

 公立病院の医療は効率が悪いと言われてきた。効率の悪い理由は改善可能なものと困難なものがある。 

 改善可能なものは、人件費の効率化、施設設備の効率化、光熱水費の効率化、材料費の効率化などが考えられる。 

 人件費で効率化可能なのは「働き以上に高い給与をもらっている人」の給与だ。公立病院の職員は「公務員」なので、中には既得権にあぐらをかいて、ほとんどその場にいるだけなのに給与が出るような人もいる。定年間近の掃除のおばちゃんが若手の医師より高給だという話も聞いたことがある。掃除は大事だし大変だが、24時間体制で命を預かる仕事より高給であるのはバランスが良くないと思う。そういう職員がいる職場は、人件費の効率化は可能だろう。 

 施設設備の効率化は「無駄な設備を作らない」ということである。たしかにこれまでは、ある程度の大きさの病院であればどこでもCTスキャンがあり、MRIがあり、こんなに医療設備が多い国はないといわれてきた。しかしそれらは遊休設備になっているわけではなく、日本の医療のレベルアップに、確実に貢献している。どの程度までは必要で、どこからが過剰な投資なのか、線引きは難しい。 
 建物にも設備にも耐用年数というものがある。公立病院の多くは1950年代から60年代に設立されており、現在もその時の建物を使用している所が多い。建て替えが必要なのに病院や自治体にはその財源がなく、同じ地域に代わりをする医療機関がなくても、縮小や廃院に追い込まれる病院が増えている。今の診療報酬は建物の建て替えなどを賄うには全く足りず、医療に支出するのは自治体の使命だと思うのだが、実際には病院事業を「お荷物」と考える自治体が増えてきている。しかし無理もない。今年3月に閉院した大阪の公立忠岡病院は「閉院が1年遅れれば、忠岡町が財政再建団体(倒産)になる可能性が高かった」(日経メディカル2007年7月号)という状況なのだから。無駄なものを建てるどころか建て替えも機器更新もままならない。 

 光熱水費の効率化は、建物を建てる時にやっておかないと、あとからの効率化は難しい。しかし自家発電設備のコストは意外にかかるから現状ではメリットが少ないし、中水道設備なども、維持費用が節約できるコストを上回る。療養環境維持のためには冷房や暖房はしないわけにいかないし、光熱水費の節約には限度がある。「なるべくこまめに電気を消しましょう」と病院幹部が言うようになったら「この病院経営危ないのかな」と職員も患者も不安になるだろう。 

 材料費の効率化は、まだできる余地のある病院が多いかもしれない。医療の材料には薬剤費とその他の材料費がある。 
 薬剤費は、平成14年の調査で、医療費の21.6%を占めるといわれる。病院で箱買いしたものの使い切れなかった薬品は不良在庫になる。不良在庫をなくすために薬の購入をやめたり、在庫を持たなくてすむ院外処方を増やしたり、安いジェネリック薬を増やしたりという手段で、薬剤費の節約はある程度できる。しかし何でもかんでもジェネリックにすれば良いというものでもない。また、自由経済下では薬剤の仕入れの値段は値引き交渉できるはずだが、値引きは「薬価差益」を病院にもたらす=医療行為以外で儲けるのはけしからんと、限りなく0に近づけるよう監視されている。実はこれは製薬業界や薬品流通業界の利益を守るためのキャンペーンだったらしいことが次第に明らかになりつつあるが。 

 その他の材料費というのは、安いものでは注射針や消毒やガーゼなど、高いものでは心臓の検査に使うカテーテルや不整脈の治療をする心臓ペースメーカー、手術で使う人工血管や人工関節などさまざまなものがある。日常の医療で使う安いものの多くは、材料費を健康保険に請求できない「まるめ」に含まれている。患者さんの血管が細くてなかなか当たらず注射針を数本余分に使ってしまったら、材料費だけで赤字になる。それは患者さんが悪いのでもなく、医療従事者が悪いのでもない。 
 高いものの材料費は、日本では価格競争が事実上ないため、国際的には非常に高いと言われている。ペースメーカーも、心筋梗塞の治療に使うカテーテルという管も、日本の方が諸外国の倍くらいの値段である。これらの価格も薬剤と同じくあまり値引きが利かない。心臓検査のカテーテルは十数万~数十万円するが、1本駄目にしてしまったら赤字になる検査はたくさんある。カテーテルが駄目になることはしょっちゅうあるが、その経済リスクをカバーできないほど、医師の技術料は安い。国際比較をしても世界最低ではないかと思う。 

 このように、公立病院の経営で改善可能な部分は多少ある。しかし例えば私が働いている諏訪中央病院を例に取ると、ここまで挙げたような工夫はほぼすべてやっている。それなのに医業収支が黒字にならなくなってきた。さらに効率化を進めろというなら、何をどこまでやったらいいのか、見通しが立たない。 


 改善困難な問題についても考えてみる。改善困難なものの多くは、効率化そのものが難しいという構造的問題を抱えている。 
 心筋梗塞の治療を例にあげる。心筋梗塞の治療は早ければ早いほど治療成績が上がり、搬送に時間がかかればどんどん死亡率が高くなる。心筋梗塞の治療設備を持つ病院が地域になかったら、その地域で心筋梗塞を発症する人が減るかといえば、そんなことは絶対にないのが医療の難しいところだ。つまり、ある程度の人数が住んでいる地域であれば、その中に心筋梗塞の治療が速やかに行える病院がなければならないし、到着までの時間がかかりすぎてはいけない。時間がかかりすぎる場合には、地域内の治療施設数を増やすか、いつでも飛べるヘリコプターなどを準備しなければならない。 
 心筋梗塞に限らず専門的な治療を行うには、準備が必要である。心筋梗塞の話を続けるが、心筋梗塞のカテーテル治療には医師だけでなく、熟練した看護師、放射線技師、臨床工学技士などが速やかに集まって治療を行う。誰が欠けてもスムーズな治療ができないので、常にこの人達をスタンバイさせておく必要が生じる。 
 年間千件を超える心臓カテーテル検査を行う医療機関であれば、これらの人員を心臓カテーテル検査専門要員として抱えても診療報酬でペイできるだろう。しかしある程度以下の件数では、専門の職員として雇うには件数が足りず、他にもさまざまな仕事をしながら心臓カテーテルの仕事もすることになる。専門にやるよりたくさんの能力も勉強も必要になる。さらに少ない件数の医療機関では、他の仕事を合わせても十分な収入がない。しかし地域の中で心筋梗塞の治療を担わなければならない使命を負った病院であれば、心筋梗塞の治療を放棄することは許されない。 

 別の例を挙げる。年間100件の手術をする病院があるとする。週2件ぐらいだから、手術室はガラガラだ。当然手術室のスタッフは、院内の他の仕事も掛け持ちしている。できる範囲での効率化はしていることになる。しかし手術室の運営にはさまざまな経費がかかり、経営を圧迫している。同じ医療圏の中には、車で1時間かかるが年間2000件の手術をしている病院がある。では、最初の病院の手術室は閉鎖してもいいだろうか。 
 手術には予定できる手術と、緊急手術がある。予定できる手術は、準備に時間がかけられるので、家から手術をする病院が遠くても大きな支障はない。しかし緊急手術は一刻を争うものが少なくない。手術室を閉鎖してしまって、そこで手術ができないからと救急車で搬送している間に命が失われたら「手術室を閉鎖していなければこんなことにはならなかった」と、責められることになるだろう。そこには手術室が必要なのであり、件数は少なくても日頃から手術をしている人たちがいる必要があるのである。(日頃手術をしていない医者が緊急手術をできないわけではないが、日頃からやっている人の方が上手だろうと考える。私の思い込みかもしれない。) 

 日本の医療は、多少の格差は仕方がないとしても、効率化が根本的に難しい地域の末端まで、医療のネットワークが張りめぐらされている。この仕組みとその実績は、WHO(世界保健機関)に「世界一」と評価されている。日本の医療の値段(診療報酬)は、全国どこでもほぼ一律価格だし、駆け出しの医者でもベテランの医者でも同じ値段という、非常に珍しい制度になっている。 
 値段が同じであれば、スタッフが専門的な仕事に専念できる都会の大きな病院の方が、効率良く仕事ができて、収入も確保しやすい。一人の職員がいくつもの仕事を掛け持ちしながら地域医療を守っている病院の方が、仕事は大変でも収入は得にくい。頑張ってきた地方の病院がバタバタ倒れるのを見殺しにしている今の政府の方針は、地方に住む人の安全と安心をも脅かしている。