過疎地に残った人は切り捨てられ、都市の人しか医療を受けられなくなるのか?  新潟県 佐渡市立相川病院の医師の皆さんへ

『過疎地に残った人は切り捨てられ、都市の人しか医療を受けられなくなるのか?  新潟県 佐渡市立相川病院の医師の皆さんへ・・公立病院の改革は過疎地医療存続のため、聖域に挑戦して日夜努力されている。医師・看護師に希望を失わないようなガイドラインの作成が 使命です。 
夕張医療センターの新任医師、永森克志・田谷智のブログもご覧下さい』 



論点・争点:2〉過疎地医療 道筋見えぬ医師確保 
2007年06月19日asahi.com 

 佐渡市立相川病院の医師(47)が12日午後、往診に出た。外海府海岸沿いの一本道を車で走り、海辺の一軒家に着いた。 
往診を終えて相川病院へ戻る医師。人件費を抑えるため、医師は自ら車を運転し、海辺の集落を訪ねた=佐渡市で 
  

 「男の人が来るの、久しぶりやなあ」。医師の姿を見て、ベッドに寝たきりの女性(86)が明るい声を出した。要介護度は最重度の5。認知症も抱える。混乱して声を上げ、同居の長女(60)が眠れないこともある。 

 外で働く長女に代わって、次女(56)が車で通ってくる。朝4時半、8時、10時……と、1日8回、おむつを替え、体をふき、食事を介助する。 

 特別養護老人ホームへの入所は100人以上が待機中と聞き、あきらめた。短期入所を利用して、息をつく。そのうえ母を病院へ連れて行くことはとてもできない。12日の往診に立ち会った次女は言う。「往診に来てもらえて本当に助かる」 

         

 先月29日、参院選を目前に、自民党は緊急の医師確保対策を打ち出した。過疎地の医師派遣体制の構築や勤務医の過重労働解消などをうたう。だが、「体制を整備する」「支援を充実する」などの言葉は並ぶものの、実現させる具体的な道筋は明記していない。 

 相川病院の常勤医3人は全員が県外出身者。県内で唯一医学部を持つ新潟大学からの医師派遣は春から秋までの月2回。冬は3人が交代で急患を24時間受け付ける。 

 新潟大学も医師派遣の余力は乏しい。大学では年約100人の医師が誕生しているが、全員が県内に残るわけではない。今春、県内に残った卒業生は43人にとどまった。 

 佐渡島の他の5病院の医師数も切迫している。昨年度の調査では、医療法で必要とされる医師の数に対する実際の数は、島内平均で86%だ。 

 島南部の厚生連羽茂病院では昨年末、常勤医4人のうち2人が退職。残る2人はベッド45床の病棟と外来の診療で手いっぱいで、訪問診療は中断した。横浜市から新たな医師を1人確保できたのは5月中旬だった。 

        

 医師不足で訪問診療が困難な状況が生まれる中で昨年度、厚生労働省はこうした実情に反して在宅医療を進めるための診療報酬の改定を行った。 

 療養病床の患者の入院基本料を、医療の必要性が低い場合は大幅に削減した。45床を療養病床として抱えていた羽茂病院は、この削減により、一気に赤字に転落した。 

 社会保障費を抑えるため、財務省は来年度、診療報酬の一層の引き下げをもくろむ。だが、参院選を前にしても、この議論は進んでいない。 

 ちぐはぐな医療政策のつけを払うのは、地域住民だ。佐渡市は羽茂病院の赤字のうち約2000万円を補填(ほてん)する方針だ。 

 市は市立両津病院と相川病院も抱える。05年度決算に見る累積赤字は両津が約23億円、相川は約9億円に上る。 

        

 佐渡市の人口は年に約1000人ずつ減り、6月初めには6万7000人を切った。過疎化により市民税収入が先細る一方、65歳以上の高齢者人口は35%を占め、身近に医療を必要とする人が増える。 

 昨年度の診療報酬改定は、看護師の都市集中にも拍車をかけた。看護師が多いと報酬が加算されるため、都市部の病院は看護師集めに走った。 

 ベッド数58床の相川病院。病棟担当の看護師16人のうち3人が08年に定年退職し、09年にも3人が定年を迎える。補充のめどは立っていない。 

 「過疎地に残った人は切り捨てられ、都市の人しか医療を受けられなくなるのか」。同病院の医師は医療政策の行方を注視する。